求婚で手打ちにしましょう

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私は雪に嫌な思い出がある。 痛むおでこに雪に落ちる赤。 どうしよう、と思いっきりうろたえたそいつの顔。 幼馴染のそいつはとびきりできたやつだった。 小学校低学年ながらに、顔は整っていて、勉強もできて。なにより足が速い。 欠点といえば悪ガキの素質を持っていたことぐらいだろう。 デリカシーもなくて、意地悪で、私が遅かったらすぐに置いて行ってしまうような奴だ。 まあ、でもこんなに欠点も挙げられるくらいには、なんだかんだ私たちは一緒にいたと思う。 保育園からの腐れ縁は、小学校低学年でからわれても離れられなかったくらい頑固なものだった。 そんなある日、あまりしょっちゅうは降らない雪が降った寒い日。 私たちは一緒に雪投げをしていた。 いや、私がかわいく雪だるまを作っていたらそいつが雪玉を投げてきて始まった雪合戦という名の邪魔された憂さ晴らし。 いつも通りの遊び、いつも通りヒートアップしたその末。 悪気のない石が混じった雪玉が見事に私のおでこにヒットした。 鋭い痛みとそいつの青ざめた顔。思ったよりも派手に血が出てしまい、駆け寄ったあいつの顔がさらに青くなる。 結局縫うことになったその傷は私のおでこに消えない傷として刻まれた。 前髪で隠れる場所だったのは幸いだったし、コンシーラーなりファンデーションなり塗れば近距離ではわからなくなる程度のもので済んだ。 悪気はまったくなかったし、子供の遊びということで謝罪を受け取るのみで終わった。 お母さんは傷が隠れることに心底安心している様子だったけれど、私はそんなことあまりどうでもよかった。 別に美形でもない普通の顔に、しかも目立たないところに傷がついたことなんてどうでもよかった。 それよりも、謝るあいつの青ざめた顔。 目が合わなかったこと。それがどうしようもなく不安で。 これで縁が切れてしまうのではないかと怖くて。 人生でこれ以上とないほど、本当に嫌だと思ったのだ。
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