素直になれる魔法の日

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でも、さっきのテレビの話が本当なら、俺も…。 勿論、告白するつもりはない。 "バレンタイン" に "好きな人" に" 贈り物をする" ただそれだけ。ただの自己満足。 その日から俺は佐倉への贈り物を考える日々。 形に残るものは重い気がするし、やっぱり消費ものだろう。佐倉は甘いものが好きだからお菓子はどうだろうか。ネットで調べてるうちにお菓子言葉というものを知り、マカロンにしようと決めたのだった。 料理のセンスがない俺は手作りをするという考えはなく、パティシエで自分の店を持つ姉に「マカロンの美味い店教えて」とメールで相談すると、すぐに電話がかかってきた。 『なになにどうしたの?亮介、甘いもの好きじゃないよね?』 「好きだけど、量が食えないだけ。どっか知らない?」 『滅多に連絡よこさないのに急に連絡くるから驚いて電話しちゃった。誰かにあげるの?』 「まあ、そんなとこかな。」 『んー、色々オススメはあるけれど。贈る目的とか関係にもよるよね。』 そう言われて、物を贈るにもそういうことも考えなきゃいけないのかと眩暈がする。恋愛経験が乏しい俺が一人で考えるよりも、正直に姉に相談した方が間違いないだろう。 「俺の好きな人。告白はしないけど、バレンタインにさりげなく渡したい。」 『そっか、素敵だね。でも告白はしないんだね。』 「俺のこと眼中にもないから。あくまでも俺の自己満足。」 聡い姉のことだから、関係性もマカロンにこだわる理由もなんとなく分かったのだろう。 色々と考えた結果、高級店のものをかしこまって渡すよりもフランクに渡せた方がいいだろうと、姉の店で販売するマカロンを贈ることにした。 渡すシチュエーションも考える。 いつも世話になってるお礼と言って渡すか。 いやでも、そうするとバレンタインデーという日を意識してる感じが強くて変に勘ぐられても困る。 じゃあ、昼休みか休憩中に一緒に食べる? でも、そのマカロンをどうやって入手したことにするんだ?今までコンビニで買える個包装の袋菓子くらいしか職場で食べてなかったやつが、このマカロン美味いんだぞって急に切り出すのもおかしい。 姉の店なんだと言った方が理由付けとしてはいいかもしれない。 そういえば、俺がまだ学生だった頃、姉が店に出す試作品だと言っては、よくケーキやクッキーなどの焼き菓子をたくさん作って家族に振舞ってた。 そうだ。姉が頑張って毎日作っている商品に失礼かもしれないが、姉が作りすぎたとくれたからお裾分けということにしたらどうだ。うん、一番違和感がない。 イメージとして完璧だ。 それなのに。 バレンタインデーを明日に控えた今日。 既に家には色とりどりのマカロンが箱に入って待ってるというのに、佐倉に渡すどころか、会うことすらできないなんて。 こうなったら仕事のメモをした付箋1枚でもいいから渡させてくれ、と思ってしまうほどにバレンタインデーを楽しみにしていた自分がいたことに気付かされた。 明後日からは俺は地方に出張なこともあり、暫く佐倉に会えないとなるとさらに悲しくなる。 目の前で呑気に「明日は一日何しよっかな」と呟きながらラーメンを啜る好きな人を見て、小さくため息を吐く。 食べ慣れたラーメンがいつもより味気なく感じたのだった。
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