素直になれる魔法の日

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思いがけず佐倉に会えたうえにマカロンも渡せた俺は、日中の負のオーラは何処へやら上機嫌で帰宅した。 佐倉には「ここまで来たのだからうちに寄ってけば?」と別れ際に声をかけたが、「出張なんだから早く寝なよ」と気を遣ってくれたようで帰っていった。 夕飯を食べ、出張の用意に取り掛かる。出張の用意といっても、そこまですることもなくあっという間に準備ができた。 そういえば佐倉が持ってきてくれた資料って何だろう、と紙袋に手を伸ばす。 紙袋には、取引先が出してるパンフレットが数年分入っていて、そういえば以前別の仕事で利用した時の資料が残っているからと貸してもらう話をしたことを思い出した。 正直、このパンフレットは取引先のホームページにも掲載されていていつでも電子で読めるのだが、佐倉と接点を増やしたい一心で紙で読みたいと言ったから、休みの日にわざわざ持ってきてくれたのだろう。 俺としては会えて嬉しかった反面、佐倉に悪いことしちゃったなと少し申し訳ない気持ちになった。 ふと紙袋に目をやると、資料の他にもうひとつ何かあることに気付く。 ゆっくりと取り出したそれは、赤のリボンがかけられたブラウンの小箱。 リボンを解き小箱を開くと、中には3粒のトリュフチョコレートとメッセージカードが入っていた。 "出張 いってらっしゃい"と佐倉の字で書かれている。 これって。 ドキドキなんて可愛いものじゃない。 心臓がバクバクと脈を打つ。 資料を渡すついでに冗談で入れたのかもしれない。 でも佐倉の性格的に冗談でわざわざこんなことするだろうか? 同期であり男同士である俺たちの間で交わされる贈り物として、今、俺の手の中にあるのは、綺麗にラッピングされたどう見ても手作りと思われるチョコレート。 バレンタインデー特集を目にしたあの日、佐倉も一緒にいた。彼にとっては深い意味はなく、出張激励のつもりかもしれないけれど。 もしも、これが特別な意味を持っていたら? これを受け取った時、佐倉の顔が赤かった理由が他にあるとしたら? 俺の都合のいいように捉えてもいいだろうか。 勘違いすんな、って笑われてもいい。 恋愛感情なんてない、って断られたって構わない。 今すぐ佐倉に会いたい。 君の気持ちが知りたい。 いや、俺の気持ちを君に伝えたいんだ。 ここで動かなければ、次に佐倉に会えるのは5日後の月曜日だ。 考えるよりも先に身体は動いていた。 部屋着から簡単に着替え、スマホをポケットに、ブラウンの小箱を手に家を飛び出す。 事前に電話をするという考えがすっかり抜けてた俺は、帰っているかも分からない佐倉に会いに、電車に乗って佐倉のアパートの前まで急いだ。
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