素直になれる魔法の日

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佐倉のアパートに着き、部屋を見上げればカーテン越しにうっすらとオレンジ色の光が透けていた。 電話しようとしてはじめて自分の息が上がっていることに気付き、どれほど無我夢中だったのかと一人笑ってしまった。 乱れた呼吸を整え、佐倉に電話をする。 7回目のコールが途切れた。 『宮浦…?』 「佐倉、よかった繋がった。今から会える?」 『今からって…何時だと思ってるの?どうかした?』 「佐倉に会いたい、会って話したい」 『出張だろ?月曜日じゃだめ?』 「できるなら、今がいい。だめかな?」 『…分かった。寝るところだったし、そっち行くのに少し時間かかるけどいい?』 「今、佐倉のアパートの前にいる」 『は!?』 電話ごしにバタバタと音がして、佐倉の部屋のカーテンが開く。 驚いた顔をした佐倉に「ごめん、来ちゃった」と手を振る。 『ちょっと待ってて』と慌てたように通話が切られた。 暫くして部屋着にコートを羽織った佐倉が出てきた。 「来るなら電話してよ、いなかったらどうすんだよ」 おろおろとしながらも、動揺してるのかいつもより言葉が強い。 「ごめん、これ見たら会いたくなって」 左手に持っていたブラウンの小箱を小さく掲げてみせる。 電灯の下、暗がりの中でも佐倉の顔が赤くなったことが分かる。 「別に、特別な意味なんてないし…」 「うん、でも俺は佐倉が好き。ずっと前から好きだったから特別な意味がなくても嬉しかった。」 「え?」 「俺、入社式の時、佐倉に一目惚れしたんだ。男とか女とか関係なく、惹かれていた。佐倉と一緒に仕事してるうちに、佐倉の良いところたくさん見つけてはその度に佐倉に恋してた。いつも周りに気を配っているところ、困ってる人に陰で手を差し伸べるところ、丁寧な仕事で俺を助けてくれるところ、手帳を埋め尽くすほどにメモする真面目なところ、休みの日も資格の勉強したり情報収集したりする努力家なところ。あとね、佐倉を愛おしいな思うところもたくさんあるよ。仕事で褒められるとちょっと照れてはにかむところ、子供みたいに目を大きくして感動するところ、時々意地悪そうにニヤって笑うところ、一緒にお昼行くとさりげなく俺の食べたいやつを提案してくれるところ、たこ焼きを2人で分ける時ソースがかかってるやつばかりくれるよね、あとね、」 「待って、もう恥ずかしい、から」 そう言って手で顔を隠しながら俯く。 「そうやって照れるところも好きだよ」 「揶揄うなよ…」 「佐倉が好きだって気持ち、伝えるつもりはなかったんだ。今の関係が崩れるくらいなら仲の良い同期でいたいと思って。でもこのままじゃ何も変わらないから。」
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