第1話ー紙袋と演劇と

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 会長は人気のいない国語準備室まで私を連れて行きました。 「それで、平野会長、お話というのは……?」 恐る恐る尋ねてみると、 「うん、来てくれてありがとうね。実は先生からの用事というより、ちょっと俺が聞きたいことがあって……。昨日、君は放課後、どこにいた?」 と質問されました。  あ、やっぱり昨日の話ですかー。でもどうして私だと分かったのでしょう。紙袋も被っていたし、何より私と会長には接点がありません。  きっと、会長も確証や証拠はないはず!ということで私はしらをきることにしました。 「普通に家に帰ってテレビを見てましたが……?どうされましたか?」 「家に帰って何をしていた?」 「さあ、雑誌を読んで宿題をしていたと思いますが……?」 私はきょとんとしながら答えました。我ながら名演技ですね。 「本当か?上川町には行ってないか?」  昨日会長をお助けした街ですね。 はい、行きました。その日はどうしても読みたい雑誌の発売日だったので、上川町の本屋に行きました。そこで、会長が追いかけられているのを見て……(以下省略)ということです。 「いいえ、行ってませんが……?」  すると、会長はじろりと私を見て、はあっとため息をひとつつきました。 「嘘をつかなくてもいい。君は昨日、俺を助けてくれたんだろう?ただお礼が言いたいだけなんだ。」 「助けた?何のことでしょう?」 私はぎくりとしながらもキョトンとした顔を続けました。 「ああ、昨日、俺がチンピラに絡まれているところを、紙袋を被ったこの学校の女子生徒に助けてもらったんだ。」 「はあ。不思議な格好ですねえ。それがどうして私だと……?」  本当にどうして分かったのでしょう。顔は見せていませんし、落とし物をした訳でもありません。きっと会長も証拠は持っていないはず、なので私はシラを切り通そうと思います。 「カバンと持ち物だよ。今朝、校門で持ち物検査をした時に気が付いたんだ。」 「はい?」 「昨日、俺を助けてくれた女子学生は、スクールバッグに「べんとーず」のぬいぐるみを付けていた。そこで俺は生徒会の活動として、校門に立って抜き打ち荷物検査をさせてもらった。すると、君がその女子学生と同じぬいぐるみをカバンに付けていたからね。……もっとも、君の荷物検査を担当したのは別の役員だったが。」  べんとーずは日本中で人気のキャラクターです。お弁当をモチーフにしたおにぎりや卵焼きが可愛いんです。しかも意外と奥深いストーリーがあって、大人からの受けもいいんです。私はおにぎりマン(しゃけ)のぬいぐるみを付けています。  それにしても、あの一瞬でそこまで見ていたとは!流石、生徒会長。恐るべしです。  ですが…… 「確かに私はべんとーずのぬいぐるみを付けていますが、日本中で人気のキャラですし、偶然ですよ。」  そう。人気すぎる故に、女子中高生でべんとーずを付けている人は少なくない!それだけでは証拠として少し弱いですよ! 「そうかもしれないな……だが、君が昨日、上川町にいたとすると、より可能性は高いのではないかな?」 「だから私は昨日家で……。」 「雑誌、Maymayを読んでいた、のかな?」 「な……。」  正解です。言葉を失ってしまいました。
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