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一章 人と鬼
「門番?」
人と人ならざる者の間にある、喫茶店…ならぬ、鬼茶店「黄昏」にいる木野道瑠璃子は正真正銘、人である。
「ここはな、自然に出来ちまった向こうとこっちを繋ぐ「門」な訳よ。そんで、人が向こうに迷い込んだりしないように、向こうの奴らがこっちで悪さしないよう監視する。そんな役割を担っているのが門番ってわけだ」
瑠璃子に講釈している、夜の仕事をしていそうな金髪、着崩したスーツを着ている男…ゴウキ。
「そっかぁ、コウキさんはそんな大事なお仕事を任されているわけですねっ!」
「その通り!悪さしようっていう奴はそれなりに強いやつ多いからな、それを抑えられる力を持っていないと出来ない、重要な役割なんだぜ……?痛っ!!!」
ゴウキの頭を、火のついていない煙管で容赦無く叩いたのは、この「黄昏」のマスターであるコウキ。
この、剛鬼と香鬼は鬼…しかも鬼の中でも上位の「色持ち」と言われる鬼である。
「こら。なんでお前が偉そうに説明してるんだ。瑠璃子さん、このバカの言うことはあまり真剣に聞いてはいけませんよ?」
「バカとは何だ、バカとは!俺は、お前と小娘の事を思ってだな…」
「うるさい」
ゴウキの頭にもう一度煙管が落ちる。
「わ、私は、もっとコウキさんの事、聞きたいです」
コウキが困ったように笑う。
瑠璃子が偶然、「黄昏」に迷い込んだ事がきっかけで知り合い、会社に入り込んでいた下位の鬼…食人鬼に襲われた所をコウキに救けられた事で、鬼だと知った瑠璃子は、最初は戸惑ったものの今はもっとコウキの事を知りたい…そう思っていた。
だが、対してコウキは瑠璃子が自分について…鬼について知ろうとすることに、いい顔をしない。
「あの…さっき、門って言ってましたけど…入り口って、私がいつも入って来る扉…あれが門なんですか?」
「いや。それはこっち側の扉だ」
「え?だって他に…」
「あるぜ。店の中に」
ゴウキにそう言われて、店内を見回した瑠璃子は、そこに、もう一つの扉があることに気がついた。
何度も店に来ているのに、まるで気がつかなかったのだ。
「え…どうして…」
向こうの扉向こうには、深い深い闇。
時々、幻想的な色とりどりの光がふよふよと横切る…。
瑠璃子が思わず、扉に向かって一歩を踏み出す。
「瑠璃子さん!!」
コウキの声に、瑠璃子が振り返ると、そこには、表情を消したコウキが、立っている。
「その扉は、絶対に開けてはいけません。何があっても、絶対に」
今までとは違う、コウキの様子に瑠璃子は思わず息を呑んだ…。
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