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三章 事の起こり
黄昏でユキに会った数日後。瑠璃子の姿は、黄昏…ではなく、ファミリーレストランにあった。
そして目の前には……。
「かーちゃ!はんばーぐ!たべてもいい?」
「今日は好きなものを頼んで良いよ」
ユキとその息子、太陽が座っていた。
この日、ユキに用事があり、その間太陽と一緒にいてくれないか?と、コウキを通じて連絡があったのだ。
そんなわけで、会社の帰りに指定されたここにいる…と、いうわけだ。
「すまないね。突然」
「いえ。大丈夫ですよ。私も太陽君に会ってみたいと思ってましたし」
「るり、ぼくにあいたかったの?」
「うん!そうだよ〜」
へへ…と笑う太陽は本当に素直な良い子だ。
「そろそろ行かないと。頼んだよ?」
「はい。いってらっしゃい」
「いってらっしゃー」
窓の外を見ると、日が落ちかけている。
時刻は夕刻…黄昏時…人と人ならざる者が混ざりあい、輪郭すら曖昧になる…別名、逢魔時を迎えようとしていた…。
「太陽君はお母さんの事、好き?」
ご機嫌にハンバーグを食べている太陽は、にぱっと笑う。
「うんっ!すき〜」
「そっかぁ」
「でも…」
「ん?」
「……今のかーちゃは、ほんとうのかーちゃじゃないも…」
「え…?」
本当のお母さんじゃない…?
「ぼく、ジュースほしい!」
言うなり、席を立った太陽は、たーっと駆け出した。
「え!ちょっと!太陽君!」
瑠璃子は反応が遅れて、慌てて太陽を追いかける。
どんっと太陽が誰かとぶつかった。
「あっ!す、すみ……ま、せん…」
瑠璃子が変にどもってしまったのも仕方がない。
「おっと、大丈夫かな?」
そこにいたのは、闇に溶けてしまいそうな、漆黒の長い髪を肩に流し、黒曜石のような瞳をした、麗人だったからだ。人間離れした美貌のその人は、一見すると男性なのか女性なのかわからない。
「あ、あのすみませんっ!」
謝った瑠璃子を、極上の笑顔で見つめ返し、
「怪我がなくてよかった」
太陽の肩辺りでその人と手が軽く触れた…その時。
ぱりんっ…と、何かが砕けたような感じがして、瑠璃子は思わず、自分の手をみてみるが…何もない。
「………?」
後ろから、柔らかな美声。
「太陽、瑠璃子、また会おうね」
振り返った瑠璃子だったが、そこには誰もいなかった。
一瞬で消えてしまったのだ。
「え……?」
そして、瑠璃子は気がついた。店内が妙に静かな事に。
あんなに人がいた店内に、今は誰もいない…?
自分と太陽しかいないのだ。
「るり…?どうしたの?」
瑠璃子は覚えがあった、前に鬼に襲われた時にも同じような事があったのだ。
瑠璃子は、思わず太陽を抱きしめた、その時。
「やっと、捕まえることが出来だぜ…」
また忽然と二人の男が現れた。
崩れた雰囲気の二人組は、太陽を抱きしめる瑠璃子を見下ろして、ニヤリ…と笑った…。
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