五章 色替わりの決戦

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五章 色替わりの決戦

 風鬼と雷鬼は、自分達の結界を張った中央公園にいた。  後ろには瑠璃子と太陽の姿。  「こんなに簡単に事が運ぶとは思わなかったなぁ」  「色持ちも大した事ねぇな」  笑い合う二人の鬼は、ちらりと二人の方を見る。  瑠璃子は太陽を抱きしめた。  太陽も瑠璃子の服をぎゅっと掴む。  「大人しくしてりゃあ、何もしねぇよ」  「まぁ、目的を達成した後は…わかんねぇけどな」  そんな風鬼と雷鬼の肩に、気安く肘を乗せて  「へぇ〜目的ってなんだ?俺にも教えてくれよ」  そんな軽口を叩く男が一人。  「ゴウキさん!」  瑠璃子の呼びかけに軽く手をあげる。  「よう!」   風鬼と雷鬼は、慌ててゴウキと距離を取る。  「な、なぜお前がここに!」  「バカな!ここは俺達の結界の中だぞ!!気付かれずに入って来られる訳が…」  後ろから漂ってくる、少し苦味のあるお香のような香り。  「甘いですねぇ…。ここまで入られても気付かないなんて」    そこには、煙管を優雅に燻らせるコウキと、肩をすくめているユキが立っている。  「人質取って、どうせ色持ちの『』狙ったんだろ?」  鬼の中でも上位の「色持ち」。  その「色」を受け渡すには二つの方法がある。  一つは「譲渡」。後継者を定め、自分自ら渡す方法だ。  そして、もう一つは…。  「みみっちいことしてねぇで、自分の力で勝ち取ってみろよ」  風鬼と雷鬼は悔しそうに顔を歪める。    「まぁ、俺は喧嘩を売られたわけじゃねーし…」  軽い足取りで瑠璃子と太陽に近づくと、ひょいっと二人を抱え上げた。  「こいつらと、高みの見物な」  そういうと、一気に跳躍して、距離を取る。  人質をなくしてしまった風鬼と雷鬼は、もう後戻りができない。  「く、くそう!こうなったらやってやる!!我は風鬼!香鬼に…」  「我は雷鬼!雪鬼に…」  「「色替わりの決戦を申し込む!」」  もう一つの方法とは、色持ちに決戦を申し込み、勝ち取ることである。  コウキとユキは、軽くため息を吐くと、自分自身をした。  コウキの髪と瞳は真紅に、ユキの瞳は(あお)にそして、髪は緩く波打つ長い髪に変わる。  「我は香鬼。(あか)を司る者…」  「我は雪鬼。蒼を司る者…」  「「受けて立つ!!」」  風鬼は風をコウキにぶつけるが、コウキは踊っているような身軽さで攻撃を避けていく。  だが、徐々に風鬼の様子が変化する。誰もいない場所への攻撃が増えてくるのだ。  香鬼(コウキ)は香りを操る。脳に直接働きかけ、幻覚を見せたり、五感を狂わせたりするのは得意なのだ。  そして、違うところに攻撃している風鬼の後ろから近づき、囁きかけた。  「僕はまだ、ほとんど力を使っていませんよ…?」  格が…違う…。  瑠璃子は、見ていてそう感じてしまった。  一方、ユキは…。  一歩も動いていなかった。雷鬼が繰り出す落雷を、雪…氷の粒で方向を変え、全て流してしまっている。雷鬼が、精一杯の力を込めた一撃を放つが、それも簡単に受け流されてしまう。  「こんなものか…?私はまだ、一歩も動いていないぞ?」  こちらも同じだ。正直、相手にもならない。  瑠璃子は、自分の服を握っている太陽の手に更に力が入っているのを感じた。そして、ユキの姿を食い入るように見つめている。  太陽くん……?  そうこうしているうちに、決着がついたようで、風鬼と雷鬼は膝をついており、コウキとユキに見下ろされていた。  「こんなのを色持ちにしたら、(おう)に怒られますね…」  「もうちょっと運動したかったのだがな…不甲斐ない…」  「「去れ」」  風鬼と雷鬼は、煙のように消えていった。  その時だった。  ユキと目があった太陽が、急に大声で泣き出す。  「え!?太陽くん??」  ユキは、そんな太陽に近づこうとして、立ち止まった。    「コウキ、頼みがある…」  太陽はまだ泣き続けている…。  「ユキ、それは…」  「コウキ、頼む…」  コウキが太陽に近づく。  「コウキさん…?」  大泣きしていた太陽が静かになり、目がトロンとしたかと思うと、ぱたんっと倒れた。  「た、太陽くん…?コウキさん、何したんですか…?」  「………」  「………コウキ…さん?」
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