六章 絆

2/2
前へ
/10ページ
次へ
 ユキは、白い雪を降らせた、静かな山の中で、夜空を見上げていた。  蒼い目と長い髪。これが本来の姿だ…なのに、何故、落ち着かないのだろうか…。  空には無数の星が瞬き、落ちてきそうだ。  太陽に、見せてやりたい…。  どうしても、そう思ってしまう。自分から手を離したのに…。  「…かーちゃ!」  ハッとその声の方を見たユキの目に写ったのは…  「……太陽…?」  「かーちゃ!!」  太陽は、雪に足を取られ、時には転びながらも、必死にユキの元へと走る。  そして、ユキの胸へと飛び込み、わんわんと泣き出した。  「どうして…コウキ、記憶は消したんじゃ…」  ゆっくりと歩いてきたコウキと瑠璃子。  「ええ。消しましたよ。間違いなく。ただ、どうしても忘れたくない。そう思った時に、記憶のフタが開くように細工はしましたが」  「………」  「太陽くん、最初にユキさんに助けられた時の事、覚えてるんだそうです」  「え…?」  「本当のお母さんに痛い事しかされなかった太陽くんは、蒼い目と髪のユキさんに助けられて…そこで、ボクはうまれたんだって、そう言ってました。だから、人の姿をしていたユキさんに混乱していたみたいなんです」  ほんとうのかーちゃじゃない…はそういう意味だったのだ。今の姿は、本当の姿じゃない。だから、ユキが決戦の際、解放した時に、やっぱり間違いじゃなかった!と思い、安心した。  「だから泣いてしまったんですって…やっぱり、太陽くんのお母さんはユキさんですよ」  「………」  ユキは、太陽のことをぎゅっと抱きしめた。  「太陽…太陽!」  「かーちゃ!かーちゃぁ〜…」    雪の中にいる為、瑠璃子は、ダウンジャケットを着て、マフラーをしているが、コウキは、いつものシャツにベストだ。瑠璃子の息は白いが、コウキの息は白くはならない…。    「人と鬼……もしかしたら、いつかは離れなければならないのかもしれない…けれど、それは今ではない。そういうことなんでしょうね」  瑠璃子は隣に立つコウキを見上げる。彼の紅い瞳は、ユキと太陽に向けられている…。  瑠璃子はしていた手袋を取って、コウキの手を握った。  「そうですね…私もそう思います」  驚いたコウキが瑠璃子を見る。瑠璃子が、微笑む。  コウキは、そっと瑠璃子の手を握り返す。    私は、絶対に、この手のぬくもりを、忘れない。  何年後も何十年後も…太陽とユキ、瑠璃子とコウキ…この雪景色の中で、こんなこともあったね…と、笑って言える。そんな思い出になるといい…瑠璃子はそう思った…。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加