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ユキは、白い雪を降らせた、静かな山の中で、夜空を見上げていた。
蒼い目と長い髪。これが本来の姿だ…なのに、何故、落ち着かないのだろうか…。
空には無数の星が瞬き、落ちてきそうだ。
太陽に、見せてやりたい…。
どうしても、そう思ってしまう。自分から手を離したのに…。
「…かーちゃ!」
ハッとその声の方を見たユキの目に写ったのは…
「……太陽…?」
「かーちゃ!!」
太陽は、雪に足を取られ、時には転びながらも、必死にユキの元へと走る。
そして、ユキの胸へと飛び込み、わんわんと泣き出した。
「どうして…コウキ、記憶は消したんじゃ…」
ゆっくりと歩いてきたコウキと瑠璃子。
「ええ。消しましたよ。間違いなく。ただ、どうしても忘れたくない。そう思った時に、記憶のフタが開くように細工はしましたが」
「………」
「太陽くん、最初にユキさんに助けられた時の事、覚えてるんだそうです」
「え…?」
「本当のお母さんに痛い事しかされなかった太陽くんは、蒼い目と髪のユキさんに助けられて…そこで、ボクはうまれたんだって、そう言ってました。だから、人の姿をしていたユキさんに混乱していたみたいなんです」
ほんとうのかーちゃじゃない…はそういう意味だったのだ。今の姿は、本当の姿じゃない。だから、ユキが決戦の際、解放した時に、やっぱり間違いじゃなかった!と思い、安心した。
「だから泣いてしまったんですって…やっぱり、太陽くんのお母さんはユキさんですよ」
「………」
ユキは、太陽のことをぎゅっと抱きしめた。
「太陽…太陽!」
「かーちゃ!かーちゃぁ〜…」
雪の中にいる為、瑠璃子は、ダウンジャケットを着て、マフラーをしているが、コウキは、いつものシャツにベストだ。瑠璃子の息は白いが、コウキの息は白くはならない…。
「人と鬼……もしかしたら、いつかは離れなければならないのかもしれない…けれど、それは今ではない。そういうことなんでしょうね」
瑠璃子は隣に立つコウキを見上げる。彼の紅い瞳は、ユキと太陽に向けられている…。
瑠璃子はしていた手袋を取って、コウキの手を握った。
「そうですね…私もそう思います」
驚いたコウキが瑠璃子を見る。瑠璃子が、微笑む。
コウキは、そっと瑠璃子の手を握り返す。
私は、絶対に、この手のぬくもりを、忘れない。
何年後も何十年後も…太陽とユキ、瑠璃子とコウキ…この雪景色の中で、こんなこともあったね…と、笑って言える。そんな思い出になるといい…瑠璃子はそう思った…。
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