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 何度も雪で転びそうになりながら小走りで駅へたどり着いた。  耳を取り外したくなる程の寒さの中、ホームで待つこと30分、やっと電車が到着した。  人波に飲まれるように電車に押し込まれた。すし詰めの車内にまたしてもストレスが積もったが、ふっかふかの布団を想像する事ですんでの所でその爆発を抑えこんだ。  30分近く満員電車に揺られて乗り換え駅で下車。あともう30分で帰れるぞ。  しかしそんな俺をあざ笑うかのようなサディスティックなアナウンスが聞こえた。 『大雪の影響で上り線下り線共に運転を見合せております。なお運転の再開は未定です』  俺の両膝が待っていたテトリス棒のようにストンと地面に落ち、ふっかふかの布団という名の夢もブロックのように消滅した。  それから1時間経った。  雪はますます強まり、依然として運転再開の気配はない。  もしタイムマシンで一度だけ過去に戻れると言われたら、さっき会社を出る前に戻りたいと迷わず答える。  そして今夜はおとなしく会社で寝る。あの時の判断ミスが悔しくて仕方ない。  周りにもたくさんの帰宅難民がいるが、その顔はみなぶつけようのない怒りと諦めに侵されていた。  眠気のピークに達した俺は改札前でしゃがみ込みそのまま寝ようとしたが、寒すぎて寝られたもんじゃない。  家はこの大雪と疲労の中で歩いて帰れる距離ではない。妻は車の免許を持っていない。  タクシー乗り場もえらい行列だ。今から並んでもいつ乗れることやら。  帰宅を諦めて駅の近くのホテルやカラオケやマンガ喫茶など夜を明かせる場所をまわったがどこも既に満席だった。  居酒屋に入ってしれっと寝てしまおうと思ったがこれも満席で入れない。  この近くに住んでいて泊めてくれそうな親しい同僚や友人もいない。  コンビニのトイレにこもって寝てしまおうという不道徳なアイデアが浮かんだ。  しかし、同じ考えの奴らがいたのだろうか、何とか見つけた3軒のコンビニのトイレ全て使用中だった。    詰んでる。  しかも初心者同士が指す将棋ばりの一手詰みだ。  この街は毎日のように乗り換えをしているが、駅の外に出たことはないので土地勘が全くない。  そんな街を極度のストレスと尋常でない眠気と寒さで意識が飛びそうな中、だいぶ長い時間さまよってる。  もう駅への戻り方も分からない。寝られないならいっそ死んでしまいたい。  そこまで思いながら俺はある路地を曲がった。特に意味はなく何となくまだ歩いていない道だと思ったからだ。 すると……  幻覚や夢なんかじゃない。  20〜30メートル先に、たしかに人影が見える。  近づいて行くと髪の長い若い女だと認識できた。両手で何かを持っている。  さらに近づき彼女の正体に目星がつくと俺は喜びに震えて涙が込み上げてしまった。  彼女は呼び込みをしているおそらくガールズバーのスタッフだ。
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