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彼女が手にしているのは店の料金システムの案内板だろう。
俺はもう屋内に入れれば何だっていい。入って寝てしまおう。ガールズバーなら酒さえ頼めば特に今夜は大目に見てくれるのではないか。
積雪で歩きにくく、奇跡的に見つけたオアシスまでのあと数メートルももどかしかった。
すると呼び込みの彼女が俺に気づいて声をかけてきた。
「ガールズバーいかがですかぁ。雪の日サービスですよぉ」
いわゆる鼻にかかるようなその声は若さの張りを感じさせ、男への媚びを適度に含んだ心地よいものだった。
彼女が手にした看板を見ると『雪の日サービス』ということで普段よりも安いらしい。
看板を持つ手の隙間から「スノー」という店名が見えるので、それにちなんだサービスだろうか。
まあ、今の俺からしたら金額がどうのこうのというより屋内で寝たいだけだ。
「帰れなくなっちゃった系ですかぁ?うちの店雪の日はお得ですよぉ。朝までやってますしぃ」
俺はその彼女の言葉に、漏れそうなところをギリギリ間に合って排便できた時のような安堵感が重なった。
二つ返事で店に入れてもらおうと、こんな大雪の寒い夜に笑顔で一人呼び込みをしている健気な彼女を見た。
初めて彼女の顔をしっかりと見たのだが、その時視覚から得た情報に脳と身体が瞬時に機能を失った。
なんて…なんて…
うつく…うつく…
…美しくないんだ。
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