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やあ。きみが新しい来訪者か。ようこそ、「いなくなったモノの世界」へ。
私は……いや、いいか。名乗らなくとも、呼ばなくとも、それでいい存在。それだけで、きみには十分なはずさ。
そうだね、きみは「いなくなった」んだ。さっきまで、どこかで平和に暮らしていたのかな? あるいは、必死に戦っていたのかな? 誰かの無事を祈っていたかもしれないし、誰かを必死に守ろうとしたかもしれない。
けれど、きみはそれを何も思い出せないはずだ。なんとなく、「そうだった」ような感覚があるだけ、確かな記憶など何もない。
それもそうだ。だってきみは、存在なんてしていなかったんだから。
何を馬鹿なことを、って思うよね。でも、自分では何も証明できないだろう? 自分は確かにそこにいるんだ、いたんだ、と主張しようとしても、証拠は持ってこれないし、記憶は引っ張ってこれない。
そして私は、少なくともきみが存在した世界があったとして、それが無いのと同じだってことを知っている。疑いたい気持ちも分かるけれど、こちらが論証するなら圧倒的に有利だ。諦めたまえよ。
家族は、仲間はどうなるんだ、と。まあ、基本的には誰しもそういった人がいるから、記憶はなくなっても、そういった人がいたって感覚があるのかもね。
その辺は大丈夫だよ。きみ一人抜け落ちたところで、なんとかなるように世界は出来ているのさ。なんなら、その仲間達もこっちにいつか来るのかな? 流石に来ないようには努めたいけどね。
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