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わたしは白地に赤い金魚の模様が描かれた浴衣を揺らし、お客さんの元に向かった。
低い位置でお団子にまとめている黒髪が、わたしの肌の白さに美しく映えていた。
指名客は鈴木さんだった。いつも通りのスーツ姿で、今日はなんだか上機嫌だった。
「キャバ嬢名鑑のランキングを書いたのって、鈴木さんですよね。有名なライターさんだって、知りませんでしたぁ。すごいですね」
わたしは小さく拍手をして、用意したオリジナルのノンアルコールドリンクを素早く差し出した。
「それを言ったら覆面調査にならないからね」
鈴木さんは冷笑を浮かべて、ドリンクを口にしている。
「事前に告知をしてくれたら、もっと気合いを入れたんですけどね」
浴衣の袖を捲し上げて、わたしは力こぶを作って見せた。
涼しいエアコンの風が店内に吹いて、外では花火が盛大に打ちあがっている。ちょうど、猫田さんの着ている紫陽花のような形だった。
「気合いを入れたら、もっとすごいサービスが受けられたのかなぁ?」
片方の口角だけを上げて、鈴木さんは意地悪くほくそ笑んでいる。
「そうなのでしょうか? さすが下戸の嬢王ですね」
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