五 下戸の嬢王

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わたしは白地に赤い金魚の模様が描かれた浴衣を揺らし、お客さんの元に向かった。 低い位置でお団子にまとめている黒髪が、わたしの肌の白さに美しく映えていた。 指名客は鈴木さんだった。いつも通りのスーツ姿で、今日はなんだか上機嫌だった。 「キャバ嬢名鑑のランキングを書いたのって、鈴木さんですよね。有名なライターさんだって、知りませんでしたぁ。すごいですね」 わたしは小さく拍手をして、用意したオリジナルのノンアルコールドリンクを素早く差し出した。 「それを言ったら覆面調査にならないからね」 鈴木さんは冷笑を浮かべて、ドリンクを口にしている。 「事前に告知をしてくれたら、もっと気合いを入れたんですけどね」 浴衣の袖を捲し上げて、わたしは力こぶを作って見せた。 涼しいエアコンの風が店内に吹いて、外では花火が盛大に打ちあがっている。ちょうど、猫田さんの着ている紫陽花のような形だった。 「気合いを入れたら、もっとすごいサービスが受けられたのかなぁ?」 片方の口角だけを上げて、鈴木さんは意地悪くほくそ笑んでいる。 「そうなのでしょうか? さすが下戸の嬢王ですね」
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