五 下戸の嬢王

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「はい、いま行きます。ではまた会いましょうね」 大声で聞こえるように話し、続いて鈴木さんに満面の笑みで別れを告げた。 入れ替わり立ち代わり、何人ものお客さんの卓を回って、イベントは難なく終わった。 猫田さんが用意してくれた材料でちらし寿司を振舞い、それも一緒に食べて大層、喜んでもらえたようだ。 全員のお客さんが帰って、再び店内は静まり返っていた。大変だったけれど、いざ終わると感傷に浸りたくなる。 オリジナルノンアルコールドリンクが積み上がっていて、わたしは誇らしげな気持ちになった。 〈さっき、仕送りしといたからね。大学での勉強、がんばってね〉 わたしは更衣室に戻り、スマホに文字を打ち込んでいた。浴衣を気崩して、だらしない姿になっている。 「これでよしっと」 小さくつぶやくと、すぐにピコンと通知音が鳴って返信が来た。 《いつもありがとう》 《そんなの良かったのに 自分のバイト代で何とかなるから、姉ちゃんは無理しないで》 二人とも、わたしのことを想ってくれる良い弟たちである。そんな兄弟のために働けたのは、もはや最高の推し活だと思う。 〈お金のことを気にせず、大学生活を謳歌してほしいだけ〉
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