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放課後の、少し暗くなった教室に私と彼はいた。いつも通り、変わらない挨拶から始まって、なんやかんやで付き合うことになった私は毎日が幸せだった。学校では周りから冷やかされて、「少し恥ずかしいね」なんて言い合って、笑って。たまに喋れない日もあったけれど、空いた時間の分気持ちはますます増えていくばかりだった。
「あや、かえろー」
振り向くと彼が、教室の入り口から小走りでこちらに向かってくる。一瞬静まる教室の空気に対して、彼は構わずずかずかと踏み込んできて、「何してんの?」と窓際の空いてる席に腰掛けた。その後ろの席だった私はサッとスマホを腕で隠して、寝たふりの体制をとる。
「なーにも、どしたの?」
席に座っていた私の手元に視線を落とした彼はさらに顔を近づけて覗き込もうとする。腕の隙間から見えていた私のスマホには検索履歴一覧が映っていて、私がすぐさまホームボタンを押す前に、彼は[好きな人 友達 揶揄われる 対処法]の項目を押した。
「まだ気にしてんの?こーゆーの」
スマホに映る[揶揄われる]の部分を、彼の力の抜けた指先がゆっくりなぞって止まる。その骨張った白い手が私の耳元に近づいてることに気がついた時、「そうだよ」とやっと声に出す事ができた。一瞬驚いてた彼はその後すぐ大笑いしてたけど、私にとってはそれどころではなかった。
「どうしよう」
その手が私に触れた時、まで来て、私は考える事をやめた。同時に私はどうしようもない人だなとも思った。
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