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 一体、どこまで走って行くのか?ホテルの敷地を出ると、木々囲まれた大きな公園が広がった。ぼんやりした灯りの中に浮かんでいる噴水が見えた時、悠人が立ち止まった。 「おおー、デッカイ噴水だなー。裕理さーん!」 「はいはい。さっきまで動けなかった子か?」 「俺の体は大食い仕様だもん。満腹からの復活だよ」 「はあ……。ブラックホールか?」 「どうかな?まだ食べられる気がする」  悠人が振り返ると、月明かりの下、艶のある黒髪が輝いた。理知的な目元が笑みの形を取った。不思議なことに、20代後半の姿が思い浮かんで重なった。自信に満ち溢れながらも、優しい顔立ちをした青年になるだろう。 (白昼夢か?未来予想か?似ている……)  悠人が静久の面影に重なった。全く顔立ちが違うのだが。失敗と成功を繰り返し、次第に自信を手に入れた姿がよく似ている。周りのことも笑わせていた。 「裕理さーん。どうしたのー?」 「君が静久に似ていた」 「ほおー。自分もそう思った。アンディープのライブ動画を見せてもらったよ。ばたばた忙しそうにしててさ、佐久弥が落ち着けーーって笑っていたよ。理久の面倒を見させられていたよね?そういうところだよね?」 「そうだよ。トイレの場所が分からなくて連れて行ったときだ。理久は10歳ぐらいになっていたけど」 「だから、佐久弥が俺のことを構ってきたのかな?」 「それは違うはずだ。考え方と優しさだ。全く違う子だぞ。悠人は悠人だ。 ”ゆうゆうコンビー” 」 「ひいいいっ。佐久弥の真似をするなよー。裕理さんのものまねは似ているんだってば」 「そうか? ”ぎゃはははははー” 」 「げえええええっ」  リアクションの後で、本気で逃げて行った。その後ろから追いついて抱きしめた。離してよ、離してやらないぞ。笑いながらじゃれ合ったあと、視線が合わさった。どちらともなく近づいていき、そっと唇が重なった。  何度か触れ合い見つめ合った時、タイミングよく、悠人がクシャミをした。その3連発の後で、ティッシュがないと騒ぎだした。もちろん俺が持っている。 「向こう……むいてよ……」  きまり悪そうな顔をして、そっぽを向いたから笑った。しつこかっただろうか?ブルーキックを受けたてしまった。とっさに避けては繰り返されてきりがない。  ふと、いたずら心が芽生えた。鼻をかんでいる後ろから抱きついて、悠人の頭の上に顎を置いた。即座に身じろいで腕の中から抜け出そうとするから、足を絡めて阻んでやった。すると、急に動かなくなった。 「抵抗しないのか?やめた?」 「寒いからだよ。このままタクシー乗り場に行こうよ」 「さすがに歩きづらい。ごめんなさい」 「へへへ。競争しようねーー。フライングする!」 「こらーー、そっちは反対だ」 「げえええええっ。わわわっ、嘘つくなよーー」 「嘘かも知れないぞーー」 「もうーー。メエーー。ひいいいいっ」  悠人のことを強引に背負うと、首筋に顔を埋めてきた。そして、空に浮かぶ月を眺めては、明後日食べに行くパンケーキの話をした。  まだ店は決まっていない。3つの店が候補になっているからだ。いっそのことハシゴするか?そう持ち掛けると、YESと答えが返ってきたから驚いた。そのリアクションが大げさだったのか?悠人の真似になってしまい、ブーブー怒られながら、足早にタクシー乗り場に向かった。
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