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2-8
一体、どこまで走って行くのか?ホテルの敷地を出ると、木々囲まれた大きな公園が広がった。ぼんやりした灯りの中に浮かんでいる噴水が見えた時、悠人が立ち止まった。
「おおー、デッカイ噴水だなー。裕理さーん!」
「はいはい。さっきまで動けなかった子か?」
「俺の体は大食い仕様だもん。満腹からの復活だよ」
「はあ……。ブラックホールか?」
「どうかな?まだ食べられる気がする」
悠人が振り返ると、月明かりの下、艶のある黒髪が輝いた。理知的な目元が笑みの形を取った。不思議なことに、20代後半の姿が思い浮かんで重なった。自信に満ち溢れながらも、優しい顔立ちをした青年になるだろう。
(白昼夢か?未来予想か?似ている……)
悠人が静久の面影に重なった。全く顔立ちが違うのだが。失敗と成功を繰り返し、次第に自信を手に入れた姿がよく似ている。周りのことも笑わせていた。
「裕理さーん。どうしたのー?」
「君が静久に似ていた」
「ほおー。自分もそう思った。アンディープのライブ動画を見せてもらったよ。ばたばた忙しそうにしててさ、佐久弥が落ち着けーーって笑っていたよ。理久の面倒を見させられていたよね?そういうところだよね?」
「そうだよ。トイレの場所が分からなくて連れて行ったときだ。理久は10歳ぐらいになっていたけど」
「だから、佐久弥が俺のことを構ってきたのかな?」
「それは違うはずだ。考え方と優しさだ。全く違う子だぞ。悠人は悠人だ。 ”ゆうゆうコンビー” 」
「ひいいいっ。佐久弥の真似をするなよー。裕理さんのものまねは似ているんだってば」
「そうか? ”ぎゃはははははー” 」
「げえええええっ」
リアクションの後で、本気で逃げて行った。その後ろから追いついて抱きしめた。離してよ、離してやらないぞ。笑いながらじゃれ合ったあと、視線が合わさった。どちらともなく近づいていき、そっと唇が重なった。
何度か触れ合い見つめ合った時、タイミングよく、悠人がクシャミをした。その3連発の後で、ティッシュがないと騒ぎだした。もちろん俺が持っている。
「向こう……むいてよ……」
きまり悪そうな顔をして、そっぽを向いたから笑った。しつこかっただろうか?ブルーキックを受けたてしまった。とっさに避けては繰り返されてきりがない。
ふと、いたずら心が芽生えた。鼻をかんでいる後ろから抱きついて、悠人の頭の上に顎を置いた。即座に身じろいで腕の中から抜け出そうとするから、足を絡めて阻んでやった。すると、急に動かなくなった。
「抵抗しないのか?やめた?」
「寒いからだよ。このままタクシー乗り場に行こうよ」
「さすがに歩きづらい。ごめんなさい」
「へへへ。競争しようねーー。フライングする!」
「こらーー、そっちは反対だ」
「げえええええっ。わわわっ、嘘つくなよーー」
「嘘かも知れないぞーー」
「もうーー。メエーー。ひいいいいっ」
悠人のことを強引に背負うと、首筋に顔を埋めてきた。そして、空に浮かぶ月を眺めては、明後日食べに行くパンケーキの話をした。
まだ店は決まっていない。3つの店が候補になっているからだ。いっそのことハシゴするか?そう持ち掛けると、YESと答えが返ってきたから驚いた。そのリアクションが大げさだったのか?悠人の真似になってしまい、ブーブー怒られながら、足早にタクシー乗り場に向かった。
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