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支度をする手を止めて、ダイニングの椅子に腰かけた。早瀬はテレビのそばへ向かった。あちこちを探しては移動している。こっちは怖がりながら、両膝を抱え込んだ。床の上に足を降ろしたくない。
「出てこない。ここまで探しても。……お腹が空いただろう。先にスープを飲んでおけ」
「椅子から降りたくないよー」
「はははは。怖いからね。俺は書斎に用がある」
「うひぇーー?」
「読んでおきたい資料がある。キミは動かない方がいい」
「待ってよ。一緒に行く……」
「さっきは呼んでも来なかった。寂しく一人で書斎にいるよ」
「裕理さん。だって、だって……」
椅子から降りて背後から抱きついた。その体が揺れているから、確信犯的だと分かっている。それでも男の意地が崩壊した。今はこのボディーにすがりつきたい。
「トイレに行ってくる。すぐ戻るから」
「一緒に行く!」
「はははははー」
「もう……」
ズルズルと引きずられている。右へ動いたり、左へ動いたりしている。その度に自分も右へ左へと動き、何とか離れないようにした。すると、クルっと振り向かれてしまい、足元がヨロけた。しかし、そのままのバランスで歩き出されて、言葉どおりに、引きずられた。行き先はテレビのそばだ。
「だめだだめだだめだー」
「悠人君。見てごらん」
「見たくないって!」
「キッチンの黒いヤツじゃないぞ。お掃除ロボットだ。蔵之介からの試作品だ。昨日、持ってきただろう」
「あああ……」
早瀬がテレビの下へと手を伸ばした。そっと視線を向けると、手のひらサイズの物体が取り出された。蔵之介さんが、自社で開発したものだ。試してもらいたいと、置いて行った。
「ほら。ここに引っかかっているから、動きが止まったんだろう」
「あああ……」
「はいはい。これで一件落着だ。さあ、オムレツを作ろう」
「うん。あの……」
「いつまでもネガティブになっていると、俺がオムレツを食べてしまうぞ。その代わり、お手伝いをしてくれ。デミグラス・キノコを温めてくれ」
「はーーい!」
この包容力に捕獲された。胸がキュンとなったし顔も熱くなった。隠したいから、すがりついたままでキッチンへ移動した。
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