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11-3
カチャ。
早瀬が使っていたという部屋のドアを開くと、明るい室内が見えた。この家で一番日当たりがいいという話の通りだ。一目で気に入った。隣にも部屋がある。楽器部屋にしていたそうだ。
「明るいねーー!」
「そうだろう。ここでオバケを見た人が誰なのか分からないけどね。気にならないか?」
「ふむふむ。俺がここに住みたくないって言わせるための冗談なんだろーー」
「やっぱりバレていたか」
やっと早瀬が笑った気がする。ここに来てから、一度も彼の笑い声を聞いていなかった。そんなにこの家が嫌なのだろうか。
「裕理さん。この家に来て嫌なことを思い出すなら、引っ越してこなくても良いよ?」
「庭が陰気な感じがするだろう。君の気が塞ぐんじゃないかと心配になっている」
「夏樹に相談しようよ!全然明るくなかった家が明るくなったんだ。俺は今の感じしか知らないけど」
「そうだなあ。オバケの話は内緒にしてもらえるか?」
「うん!あ……」
するとその時だ。俺の方にラインが入った。画面を見ると、佐久弥からだった。
「裕理さん。佐久弥からだよ。『今、家に向かっている。門の鍵は開いているか?』だって」
「閉めていると返事を返してくれ。迎えに行こう」
「電話で話すよ。……もしもし。佐久弥。鍵は閉めているから、これから迎えに行くよ。待ってて!」
佐久弥がOKと返事をしてきた。彼の方も、久しぶりに家の中に入りたかったそうだ。大学時代は、アンディープのメンバーと、この部屋で集まることがあったそうだ。懐かしい思い出だろう。
「裕理さん。決めたよ。ここに住む!」
「そうか。ありがとう」
そう言って、早瀬から抱きしめられた。そして、佐久弥から連絡が来なければ、ここで俺のことを襲うつもりだったと聞き、ブルーキックをしてやった。
「あ……。グランドピアノがある!」
「ああ。実母が弾いていたそうだ。母も弾いているよ」
一階に降りたとき、奥の方に扉が開いている部屋があり、グランドピアノが置いてあるのが見えた。佐久弥を待たせているのだが、どうしても先に見たくて、その部屋に行った。明るい部屋だった。
どうしても、この家に住みたくなってしまった。早瀬の気が変わらないように、そう伝えた。早瀬からは笑顔が返ってきた。
「おーーーい」
「さくやーーー。おまたせ!」
「おまたせ」
門のそばに行くと、門の向こうに、佐久弥が立っていた。早瀬が鍵を開けた。俺と早瀬で佐久弥のことを迎え入れた。そして、佐久弥も驚いていた。庭が殺風景だったからだ。ブランコだけが可愛らしいと言っていた。
「どうやったら明るくなるかなーー」
「オバケが出ないようにすれば良い」
「ふむふむ。ここで暮らすようになれば明るくなるかな。夏樹の意見も聞きたいなーー」
佐久弥も俺と同じ事を言った。彼もまたオバケの話を知っていた。オバケが大の苦手な夏樹には内緒にすることを決めて、彼に連絡を取った。庭を明るくするアイデアが欲しいと。するとすぐに返事が返ってきて、喜んで!と返ってきた。これからここで新しい生活が始まる。マンションを出るのは寂しいが、ワクワクした気持ちになった。
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