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 カチャ。  早瀬が使っていたという部屋のドアを開くと、明るい室内が見えた。この家で一番日当たりがいいという話の通りだ。一目で気に入った。隣にも部屋がある。楽器部屋にしていたそうだ。 「明るいねーー!」 「そうだろう。ここでオバケを見た人が誰なのか分からないけどね。気にならないか?」 「ふむふむ。俺がここに住みたくないって言わせるための冗談なんだろーー」 「やっぱりバレていたか」    やっと早瀬が笑った気がする。ここに来てから、一度も彼の笑い声を聞いていなかった。そんなにこの家が嫌なのだろうか。 「裕理さん。この家に来て嫌なことを思い出すなら、引っ越してこなくても良いよ?」 「庭が陰気な感じがするだろう。君の気が塞ぐんじゃないかと心配になっている」 「夏樹に相談しようよ!全然明るくなかった家が明るくなったんだ。俺は今の感じしか知らないけど」 「そうだなあ。オバケの話は内緒にしてもらえるか?」 「うん!あ……」  するとその時だ。俺の方にラインが入った。画面を見ると、佐久弥からだった。 「裕理さん。佐久弥からだよ。『今、家に向かっている。門の鍵は開いているか?』だって」 「閉めていると返事を返してくれ。迎えに行こう」 「電話で話すよ。……もしもし。佐久弥。鍵は閉めているから、これから迎えに行くよ。待ってて!」  佐久弥がOKと返事をしてきた。彼の方も、久しぶりに家の中に入りたかったそうだ。大学時代は、アンディープのメンバーと、この部屋で集まることがあったそうだ。懐かしい思い出だろう。 「裕理さん。決めたよ。ここに住む!」 「そうか。ありがとう」  そう言って、早瀬から抱きしめられた。そして、佐久弥から連絡が来なければ、ここで俺のことを襲うつもりだったと聞き、ブルーキックをしてやった。 「あ……。グランドピアノがある!」 「ああ。実母が弾いていたそうだ。母も弾いているよ」  一階に降りたとき、奥の方に扉が開いている部屋があり、グランドピアノが置いてあるのが見えた。佐久弥を待たせているのだが、どうしても先に見たくて、その部屋に行った。明るい部屋だった。  どうしても、この家に住みたくなってしまった。早瀬の気が変わらないように、そう伝えた。早瀬からは笑顔が返ってきた。 「おーーーい」 「さくやーーー。おまたせ!」 「おまたせ」  門のそばに行くと、門の向こうに、佐久弥が立っていた。早瀬が鍵を開けた。俺と早瀬で佐久弥のことを迎え入れた。そして、佐久弥も驚いていた。庭が殺風景だったからだ。ブランコだけが可愛らしいと言っていた。 「どうやったら明るくなるかなーー」 「オバケが出ないようにすれば良い」 「ふむふむ。ここで暮らすようになれば明るくなるかな。夏樹の意見も聞きたいなーー」  佐久弥も俺と同じ事を言った。彼もまたオバケの話を知っていた。オバケが大の苦手な夏樹には内緒にすることを決めて、彼に連絡を取った。庭を明るくするアイデアが欲しいと。するとすぐに返事が返ってきて、喜んで!と返ってきた。これからここで新しい生活が始まる。マンションを出るのは寂しいが、ワクワクした気持ちになった。
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