13-1 友達のお見舞い

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13-1 友達のお見舞い

 3月21日、水曜日。14時。  今日は祭日だ。早瀬の運転する車が湾岸線へ入った。目当てのスポットをハシゴしながらドライブをしている。これからレインボーブリッジを通って、ここから見えている対岸へ進む。  桑園怜さんが滞在しているホテルが目的地だ。そこで彼を乗せて、今夜の食事の店へ移動する。その待ち合わせまでには時間がある。どこへ行こうかと話し合った。 「ここを抜けたら公園がある。イベントをやっているぞ」 「調べたよ。カフェ祭りだよ。40店舗が集まるって。そこから近いのが、プラネタリウム。そこのスタンドにある、ソフトクリームが美味しいって。口コミにあるよ」 「食べることばかりだなあ。晩ご飯が入らなくなるぞ?……ごぼう天を食べているのに」 「平気だよ。朝ごはんを控えめにしたし。これ、美味しいよー。裕理さん、詳しいもんね」 「マーケティング部門で培った。怜さんのリクエストだ。恋しかったそうだ。後で食べさせてくれ」 「うん。こっちが俺たちの袋だよ……」  午前中に回った郊外の店で買ったものだ。じゃこ天、ごぼう天など、魚のすり身で作ったものだ。子供の頃に食べていた。まさか、知る人ぞ知る店だとは。遠くからも買いに来ているようだ。祖母の家の近くにもある。  この間、祖母の家に寄った。今住んでいる江川さんに、丸太椅子のお礼を言うために。古民家が好きで、賃貸物件を探していたそうだ。そういう人に住んでもらえて嬉しい。田んぼが広がっている場所だ。懐かしいと思いながら楽しんだ。早瀬が笑い出した。変なことを思い出さないでほしい。 「案山子を見て、悲鳴をあげていたな?」 「ビックリしたんだよ。仕方ないだろー」 「たしかに。日が暮れて、白衣を着た人が二人も立っていたら驚く」 「そうだろ。しかも車庫に入れたら覗かれたし……」 「趣味が悪いぞ。たまたまにしても。ははは」  田んぼの二本の案山子には、白衣が着せられていた。ぼんやりと薄暗い中、オバケがいるかと思った。昼間も驚かされた。家の車庫に停めたタイミングで、立て掛けてあった案山子が倒れてきたからだ。まるで覗いてきたかようだった。あれにも腰を抜かしそうになった。  笑いっぱなしでドライブをしながら、モデル起用の話へ移った。プラセルから正式に、IKUへオファーが来た。その結果、来年へ向けての計画がスタートした。  たまに、島川さんから連絡が入る。新作Tシャツの試作品を渡すよとか、ショップでイベントをやるから、遊びに来ないか?というものだ。佐久弥からクギを刺されているし、早瀬抜きで行かないから、いつも2人で訪ねている。 (危ないって言われたけど、平気だけどな……)  俺の前で、島川さんが早瀬へラブコールをしている。冗談としか思えない程度のものだ。綺麗な瞳だ、名前も素敵だ。服をプレゼントする、素晴らしく似合うだろう等だ。
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