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 ここはイベント広場の会場だ。向こうの方で何かやっている。桑園さんとの合流場所へ歩いて行った。待ち合わせ場所も変更になったからだ。予定変更は珍しくないよと言いながら、早瀬が湾沿いの道を眺めて笑った。  桑園さんは気まぐれな性格をしていて、フットワークの軽い人のようだ。俺と会うのを楽しみにしてくれている。早瀬が捕まえたパートナーに興味があるそうだ。 「君とは気が合いそうだぞ。可愛がられると思う。また連れて行かれるのか……」 「終わった話だろー。仲直りもしたんだし。裕理さんが一番だってば。もう……」  さっきまでの心配はなくて、お互いに照れ笑いをしている。結婚指輪もしているのに、意外と妬くものだと分かった。  向こうの方では、大学生連れが柱のそばで集まっていた。誰かと話しては立ち去っている。その先には、遠目にも垢抜けた男性が立っていた。長い髪を後ろでまとめた、ラフな格好をしている。 「あの人が桑園さんだ。ははは、さっそくやっているなー」 「カッコいい人だね。さすがはデザイナー。ええ?何をやってるの?」 「動画の撮影だよ。生中継していると言っていた」 「ふむふむ……。だからここで待ち合わせなのか」  カメラの三脚にカメラをセットしてある。その前に立って操作をしては、通りかかった人に声を掛けていた。そして、だんだん近づいて行くごとに、桑園さんの本当の姿を知った。綺麗な顔立ちのイケメンの鼻からは、白い棒が下がっていた。ネットで見たことがある。鼻毛ワックス脱毛というものだ。あのままでホテルの中から出てきたということなのか。 「裕理さん……。あああ……」 「変わっていないなー。ははは」 「裕理くーん!」  俺たちに気づくと、桑園さんが颯爽と歩いてきた。簡単に挨拶した後、早瀬の頬にキスをした。あらかじめ話を聞いていたから驚かない。いや、桑園さんのスタイルの方に目が釘付けだからだ。 「……悠人。ご挨拶は?」 「は、はじめまして!……え?無理ですー。ひいいいいっ」 「わあーー。ノリがいい!聞いていた通りだよ。引いてくれないかな?」  桑園さんから、鼻から出ている棒を引っ張ってくれと頼まれた。それで脱毛が完了するという。しかも、それを動画で生中継するという。冗談ではない。見たくない。痛そうでもある。早瀬が肩を揺らして笑い続けている。  ここで何をしているのかを教えてもらった。通りかかった人に棒を引き抜く手伝いをしてもらい、その様子を動画撮影する目的だ。この話を聞くだけでも、ズッコケそうになった。俺のリアクションに、桑園さんが目を輝かせた。大好きなタイプだと言われた。 「裕理君は真面目だろーー?こんな知り合いがいるって分かれば、イメージが変わると思って。20歳なら、もっと騒ぎたいだろう?」 「そうだったんですねー。裕理さんは面白いですよ。家の中じゃグダグダだし……」 「へえー。君が殻を破ったのか。どうりで笑い方が違うと思った。黒崎から話は聞いたけど。実際に会うと納得できた。悠人君の力だね」 「……桑園さん。撮影はどうするんですか?食事に間に合わなくなる」 「ヘッドハンティングをしてくるよ。待っていてね!」  桑園さんが周りの人に声をかけ始めた。ノリの良さそうな大学生を選んでいる。面白いなと見つめていると、ヴィジブルレイの子だと声があがった。手を振り返しておいた。 「悠人君。こっちへ隠れていようね」 「うん。風が冷たいもんねー」  背後から覆うようにして抱きつかれた。早瀬が妬いたからだ。そのまま柵の方へ歩いて行き、誰にも見られなくなった。向かい合わせになりたいのに、だめだと言い返された。そして、桑園さんからの指摘が図星だったからだと打ち明けられた。桑園さんと最後に会ったのが2年半前だという。俺と出会って変化して、今の早瀬になった。久しぶりに会って驚かれたから、嬉しくもあり恥ずかしいそうだ。 「それだけ裕理さんのことを……、中身を見ていたってことだよね?仲が良いんだねーー」 「ああ。親しくさせてもらっている。桑園さんは相手を見抜く力が強い。それが葛藤になっている話を聞いた。見たくない面を知るから」 「優しい人だね。さっそく俺のことを笑わせてくれたし。帰国したばかりだと、疲れているよね?時差があるし。イタリアと日本だと……」 「さすがだなあ。君に応援団がつくのが分かる」 「もうーっ、拗ねるなよー」  背後から頬ずりをされて、チクチクした感触が起きた。ヒゲの剃り残しがあるようだ。あまり濃くないから、そんなに気にならない。いつも完璧にやっている人が珍しいことだ。  振り向きながら言おうとすると、グリグリと頬ずりをされた。笑いながらだ。分かってやっているのか。身体の前で腕を組まれているから逃げだせない。やめてと文句を言うと、キスで口を塞がれた。これでは周りから丸見えだ。すると、覆い隠す様にして抱きつかれた。はしゃいでいる様子だ。 「はしゃいでいるのー?」 「こうでもしないと集中してもらえない。ヒゲの剃り残しは、うっかりだ。休みの日はダラっとしたい」 「やめてよ。もうーー」 「もっと舐めてもいいか?」 「変質者!」 「懐かしいなあ。出会った時に言われたよ。変質者でもいい。視線を向けてもらえるから」  照れくさいながらも微笑み合っていると、桑園さんから声がかけられた。ヘッドハンティングが完了したそうだ。そこには、藤沢と如月が立っていた。
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