12人が本棚に入れています
本棚に追加
石丸は脳内で激しく後悔して頭を抱えて悶え苦しむ。
(いまおそらく絶対に真辺氏を不快にさせてしまった。どうしよう私もとりあえず悲しんでおくべきなのか? だがよく知らない人間が死んだと聞いて悲しめるか? いやしかし空気を読まないと異常者扱いされてしまう)
「石丸さん?」
(だが空気とはどうやって読めば良いのであったか? いつも当たり前にこなせていたはずなのにわからない。私はこんなに察しが悪くて感情希薄な人間だったか? 夏樹様が真辺氏を慕っているのであろうことも察した。組合の仲間らをシ人に虐殺された時もちゃんと怒れた。なのに今の私ときたらまるで薄情な莫迦者ではないか)
「石丸さん?」
啓二が石丸の肩を掴んでしきりに呼びかけているが、思考の落とし穴に嵌った石丸はまったく反応できない。
(やはりこのところ仕事続きで祈力を使いすぎていて、精神が摩耗しているのだ速やかに滝行で身を清めねば)
「フリーズしてる」
ひたすら心配そうな啓二をよそに石丸が目を見開く。
「拙者も山ごもりしてくるで御座る」
「ハイ? なんでそうなるんすか?」
踵を返した石丸の狩衣の袖を啓二が引っ張って止め、先ほどよりもいくらか荒っぽい声で籠山の説得に戻る。
「とにかく無茶っすよ籠山さんっ!」
「そりゃ楽だと修行になんないもん」
「あの内ゲバで二度も大ケガして死にかけてんのに! 前にも何度かこんなことやってたって聞きましたよ! 断食して一睡もせず蒸し風呂みてぇな穴に籠もって! 害霊とやり合いまくるなんて自殺行為じゃないすか!」
「昔の減量に比べりゃだいぶマシさ」
その一方で大岩の向こう側はにわかに騒がしくなる。
「おっとまた団体サマのお出ましだ」
籠山の鉄拳によると思しき衝撃が坑道の壁を揺らす。
「もうこの岩ブッ壊します石丸さん離れて!」
進路を塞ぐ障害物めがけて啓二は正拳突きを放つが、打ち込まれたそれはブッ壊れるどころか欠けもしない。
「無駄だよ結界を仕込んでる! 貴様ら諦めて帰れ!」
滅多にない籠山の怒声が壮絶な威圧感を伴って響き、啓二と石丸を震撼させて無意識のうちに後退せしめる。
歴戦の祓い屋が纏う殺気は人間相手に向けられた時、強力な害霊同様の恐怖を与えて狂気にすら誘うという。
「あの人の頑固は筋金入りだ! ああなると聞かぬ!」
「みすみす死なせられっかよ! 俺ァ絶対に諦めん!」
ビクともしない岩を殴り続ける啓二の拳が傷ついて、吹き出す血にまみれていくのを石丸は見ていられない。
最初のコメントを投稿しよう!