男が来た

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 石丸は脳内で激しく後悔して頭を抱えて(もだ)え苦しむ。 (いまおそらく絶対に真辺()を不快にさせてしまった。どうしよう私もとりあえず悲しんでおくべきなのか? だがよく知らない人間が死んだと聞いて悲しめるか? いやしかし空気を読まないと異常者扱いされてしまう) 「石丸さん?」 (だが空気とはどうやって読めば良いのであったか? いつも当たり前にこなせていたはずなのにわからない。私はこんなに察しが悪くて感情希薄な人間だったか? 夏樹(ナツキ)様が真辺氏を慕っているのであろうことも察した。組合の仲間らをシ人に虐殺された時もちゃんと怒れた。なのに今の私ときたらまるで薄情な莫迦(ばか)者ではないか) 「石丸さん?」  啓二が石丸の肩を掴んでしきりに呼びかけているが、思考の落とし穴に(はま)った石丸はまったく反応できない。 (やはりこのところ仕事続きで祈力(きりょく)を使いすぎていて、精神が摩耗(まもう)しているのだ速やかに滝行で身を清めねば) 「フリーズしてる」  ひたすら心配そうな啓二をよそに石丸が目を見開く。 「拙者(セッシャ)も山ごもりしてくるで御座る」 「ハイ? なんでそうなるんすか?」  (きびす)を返した石丸の狩衣の袖を啓二が引っ張って止め、先ほどよりもいくらか荒っぽい声で籠山の説得に戻る。 「とにかく無茶っすよ籠山さんっ!」 「そりゃ(ラク)だと修行になんないもん」 「あの内ゲバで二度も大ケガして死にかけてんのに! 前にも何度かこんなことやってたって聞きましたよ! 断食(だんじき)して一睡(いっすい)もせず()し風呂みてぇな穴に()もって! 害霊とやり合いまくるなんて自殺行為じゃないすか!」 「昔の減量に比べりゃだいぶマシさ」  その一方で大岩の向こう側はにわかに騒がしくなる。 「おっとまた団体サマのお出ましだ」  籠山の鉄拳によると(おぼ)しき衝撃が坑道の壁を揺らす。 「もうこの岩ブッ壊します石丸さん離れて!」  進路を塞ぐ障害物めがけて啓二は正拳突きを放つが、打ち込まれたそれはブッ壊れるどころか欠けもしない。 「無駄だよ結界を仕込んでる! 貴様ら諦めて帰れ!」  滅多にない籠山の怒声が壮絶な威圧感(プレッシャー)を伴って響き、啓二と石丸を震撼(しんかん)させて無意識のうちに後退せしめる。  歴戦の祓い屋が纏う殺気は人間相手に向けられた時、強力な害霊同様の恐怖を与えて狂気にすら(いざな)うという。 「あの人の頑固は筋金入りだ! ああなると聞かぬ!」 「みすみす死なせられっかよ! 俺ァ絶対に諦めん!」  ビクともしない岩を殴り続ける啓二の拳が傷ついて、吹き出す血にまみれていくのを石丸は見ていられない。
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