男が来た

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「よせ啓二どの! 私に策がある!」  石丸はゴザル語尾も忘れて叫ぶなり啓二の腕を掴む。 「どうすんすか? 戦術神楽(カグラ)すか?」 「お引き(そうら)え」  言うが早いが石丸は着物を脱ぎ始めて白肌をさらす。女の裸でも見たように啓二がギョッとして目を背ける。 「なっ……何して……」 「岩戸(イワト)作戦つかまつる」  §  石丸が準備する間に大岩の向こう側は静まり返った。どうやら戦いが終わったようだが籠山の安否は不明だ。 「籠山どの!」 「まだいたのかい……しつこいねキミら……」  返事があったものの明らかに消耗しているとわかる。傷口が開いたか新たに負傷したか苦しげな声色である。  一方の石丸はというと巫女(みこ)装束に着替えており、 「此処(ここ)(うたげ)の場といたす!」  などと宣言して(あで)やかに舞い始めるのであった。  いつもポニーテールにまとめている長髪は解放され、優雅な所作に合わせて白生地の上ではらはらと滑った。手中の神楽鈴は舞いの合間に一定間隔で振り鳴らされ、清らかに響く心洗う音が儀式の神々しさを高めていく。 「綺麗(キレイ)だ」  と呟いて息を()む啓二に石丸は(おごそ)かな指示を飛ばす。 「もそっと声高に(たた)えよ! 大仰に(はや)し立てるのだ!」 「う……うっす!」  意味不明な要求に困惑した様子の啓二が素直に従う。 「す……すげぇ!」 「的確に表現せぬか!」 「やべぇマジで綺麗だパねぇ!」 「ボキャブラリーが(とぼ)しすぎる」  ガッカリしてうなだれる動作すら石丸は演舞に加え、次第にその全身を(ほの)かな光明で(ふち)取って坑道を照らす。 「祭りじゃ祭りじゃ!」 「神楽舞じゃ爆アゲじゃ!」  安っぽいボイスチェンジャーでも使っているような、高音の(ささや)き声とともに異形の(ホタル)が湧いて集まってきた。ひしめく害霊どもに怯えて普段なら隠れているはずの、小さなパリピの益霊(えきれい)『レッツパーリーナイ(ちゅう)』である。奴らは楽しげな雰囲気の場所に寄ってくる習性をもち、人間のテンションを上げてくれるので益霊認定された。  いわゆる『場酔い』という現象は奴らの仕業なのだ。 「石丸クン?」  外の様子が気になってか怪訝(けげん)そうな籠山の声が響く。 「何やってんの?」 「籠山どのよりも強い祓い屋が現れたので宴で御座る」 「へェそりゃいいや僕サンもこれで心置きなく死ねら」 「あと籠山どのが(たの)しみにしてた新作ゲーム発売記念」 「それならもう買って一日で完クリしたし未練ないや」 「つっよ」  石丸の豆腐(とうふ)メンタルが崩れかけたその時である。  難攻不落(なんこうふらく)かと思われた大岩戸がゆっくりと開く。 「やっ!? やったか!?」
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