男が来た

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 石丸の笑顔は岩戸の隙間から飛んできた鉄拳を受け、クシャクシャに丸められた新聞紙の塊みたく潰される。 「ぶべら」 「てかさ」  とうとう岩戸の向こう側から外へと出てきた籠山は、人肌の(ぬく)もりをいっさい感じないほどの無表情である。 「ナメてない? 僕サンのこと」  手負いの獅子(しし)という表現がうってつけな気迫を放ち、顎(ヒゲ)の巨漢が(いか)つい拳をゴキゴキと鳴らして踏み出す。 「なっナメてないで御座るっす」 「マジで帰らせたきゃ僕サンを倒してからにしなね? ふたりがかりでもなんでもいいからかかっておいでよ」  巨漢は両腕を顔の前で揃えてやや前傾ぎみに構える、往年のマイク・タイソンのような戦闘ポーズをとった。  直後に起き上がった石丸は隣で青ざめる啓二を、 「()るしかないで御座る!」  と鼓舞するなり自らも拳を構えた。 「うおおおおおおおおッ!」  冷たい坑道に男たちの熱い雄叫びがこだまする。  §  数分後の3人は地べたで仰向けに転がっていた。  完治しきらない大ケガに加えて度重なる苦行の結果、疲労困憊(こんぱい)している籠山は健康体の男ふたりに圧勝した(・・・・)。 「あーもぉ強すぎんだろ! 籠山さん半端ねぇって!」  啓二が唸って気絶(チーン)すると籠山は静かに語り出す。 「いや弱っちいさ僕サンってば役立たずロートル人間。白玉に御札(おふだ)()られてたこと気づくの遅すぎ鈍感野郎。現場に行っても間に合わなくって白玉を救えなかった。なんのために祓いのチカラ鍛えてきたのかわかんない」  淡々とした籠山の自嘲にすすり泣く声が重なる。 「えっ石丸クン泣いてる? ゴメンね痛かったよね?」 「違うで御座る籠山どのは頑張ったでは御座らぬかァ。拙者なんか二日酔いになっちゃって家でずっと寝てた。みんな内ゲバで大変なのにひとりだけ動けない生ゴミ。しかも白玉ちゃんの名前すら覚えてない冷血クズ野郎」  大の男がイジイジと己を卑下(ひげ)する場で、 「失礼ですけどおふたりともおバカさんですねー」  と啓二だけは脈絡なく明るく笑い出す。 「おれ白玉のことならなんでもよくわかるんですよー。ご迷惑かけた先輩たち逆恨みする小さい女じゃないー。つーかデカ女ですけどねオッパイもデカかったしなー。おれにゃモッタイナイくらいでーじ(・・・)イイ女だったなー」  啓二は目を糸みたいに細めていた。 「あいつならきっとこう言いますー」 「キミ変くない?」 「なんくるないさー。お世話になりましたーってね♡」 「アタマ打った?」 「あれ……? あっ俺……なんか寝言いってました?」 「えっウソっ」
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