12人が本棚に入れています
本棚に追加
石丸の笑顔は岩戸の隙間から飛んできた鉄拳を受け、クシャクシャに丸められた新聞紙の塊みたく潰される。
「ぶべら」
「てかさ」
とうとう岩戸の向こう側から外へと出てきた籠山は、人肌の温もりをいっさい感じないほどの無表情である。
「ナメてない? 僕サンのこと」
手負いの獅子という表現がうってつけな気迫を放ち、顎髭の巨漢が厳つい拳をゴキゴキと鳴らして踏み出す。
「なっナメてないで御座るっす」
「マジで帰らせたきゃ僕サンを倒してからにしなね? ふたりがかりでもなんでもいいからかかっておいでよ」
巨漢は両腕を顔の前で揃えてやや前傾ぎみに構える、往年のマイク・タイソンのような戦闘ポーズをとった。
直後に起き上がった石丸は隣で青ざめる啓二を、
「戦るしかないで御座る!」
と鼓舞するなり自らも拳を構えた。
「うおおおおおおおおッ!」
冷たい坑道に男たちの熱い雄叫びがこだまする。
§
数分後の3人は地べたで仰向けに転がっていた。
完治しきらない大ケガに加えて度重なる苦行の結果、疲労困憊している籠山は健康体の男ふたりに圧勝した。
「あーもぉ強すぎんだろ! 籠山さん半端ねぇって!」
啓二が唸って気絶すると籠山は静かに語り出す。
「いや弱っちいさ僕サンってば役立たずロートル人間。白玉に御札を盗られてたこと気づくの遅すぎ鈍感野郎。現場に行っても間に合わなくって白玉を救えなかった。なんのために祓いのチカラ鍛えてきたのかわかんない」
淡々とした籠山の自嘲にすすり泣く声が重なる。
「えっ石丸クン泣いてる? ゴメンね痛かったよね?」
「違うで御座る籠山どのは頑張ったでは御座らぬかァ。拙者なんか二日酔いになっちゃって家でずっと寝てた。みんな内ゲバで大変なのにひとりだけ動けない生ゴミ。しかも白玉ちゃんの名前すら覚えてない冷血クズ野郎」
大の男がイジイジと己を卑下する場で、
「失礼ですけどおふたりともおバカさんですねー」
と啓二だけは脈絡なく明るく笑い出す。
「おれ白玉のことならなんでもよくわかるんですよー。ご迷惑かけた先輩たち逆恨みする小さい女じゃないー。つーかデカ女ですけどねオッパイもデカかったしなー。おれにゃモッタイナイくらいでーじイイ女だったなー」
啓二は目を糸みたいに細めていた。
「あいつならきっとこう言いますー」
「キミ変くない?」
「なんくるないさー。お世話になりましたーってね♡」
「アタマ打った?」
「あれ……? あっ俺……なんか寝言いってました?」
「えっウソっ」
最初のコメントを投稿しよう!