女が来た

1/4
前へ
/10ページ
次へ

女が来た

「お助けくださいっ!」  静寂を破って駆けてきたのは見知らぬ女である。 「お祓い屋さんですよね?」 「どひえぇ! どっどちら様で御座(ゴザ)りゅりゅりゅっ?」  石丸が滅茶苦茶テンパって箒に足を引っかける。  マイクスタンドを振り回すパフォーマンスよろしく、一回転させた箒を敷石に叩きつけてへし折ってしまう。 「ウチの子が大変なんです! どうかお願いします!」 「へ? オコサマが?」  §  依頼主は(うれ)いを帯びた妖艶(ようえん)な美貌の主婦・(アンズ)だ。  肉感的な体型で(にお)い立つような色気(エロス)を漂わせており、無分別な男ならモラル度外視でむしゃぶりつくだろう。  そんな魅力的な女が石丸には恐怖の対象でしかない。 「数日前まで元気な子だったのに急におかしくなって」  道すがら相談事をポツポツと語っていく杏に対して、距離をとってついていく石丸は完全に腰が引けている。 「そーなんでごじゃるかテーヘンでごじゃりまするね」 「意味不明なことを叫んで四つん()いで走り回ったり、ケモノみたいに唸って怯えてワタシに噛み付きますの。病院にも引っ張って連れていきましたが門前払いされ、キツネ()きなんじゃないかって夫も困り果ててまして」  杏が素早く振り向いて石丸の胸にしなだれかかった。「きゃああっ」という悲鳴はもちろん石丸の声である。 「美形で凄腕の祓い屋さんが神社にいるって聞いて! 一縷(いちる)の望みにかけて(ワラ)にも(すが)る思いで参りましたの!」 「おっ奥様おちついてくだされ全力つくすでごじゃる」 「まァなんて慈悲(じひ)深い……でもウチは生活が苦しいの。依頼料がちょっと高い……代わりといえばカラダしか」 「そんなん初回サービスで無料(タダ)でいいでごじゃるよぉ」  石丸とて慈善事業でやってるわけじゃない。  ただ一刻も早く女性とオサラバしたいのだった。  §  杏の案内で訪れたのは町外れの小汚い一軒家だ。  庭などロクに手入れもされていないのか草まみれで、家の壁一面にツタ状植物が張り巡らされて薄気味悪い。 「どうぞコチラですわ」  リビングには満杯(パンパン)のゴミ袋が所狭しと()き詰められ、無数のハエが飛び回ってウジちゃんも床で踊っている。  奥の部屋の前で杏は立ち止まって石丸に説明をした。 「ウチの子は最近ずっと部屋に閉じこもっていますの。出てくるように言ってもイヤがってばかりで仕方なく」 「(アマ)岩戸(イワト)で御座るな」  そのゴミ屋敷バージョンと表現したいがやめておき、石丸は杏に許可してもらったうえでドアをノックする。 「入ってもいいかい?」  反応がない。 「入るよー?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加