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女が来た
「お助けくださいっ!」
静寂を破って駆けてきたのは見知らぬ女である。
「お祓い屋さんですよね?」
「どひえぇ! どっどちら様で御座りゅりゅりゅっ?」
石丸が滅茶苦茶テンパって箒に足を引っかける。
マイクスタンドを振り回すパフォーマンスよろしく、一回転させた箒を敷石に叩きつけてへし折ってしまう。
「ウチの子が大変なんです! どうかお願いします!」
「へ? オコサマが?」
§
依頼主は憂いを帯びた妖艶な美貌の主婦・杏だ。
肉感的な体型で匂い立つような色気を漂わせており、無分別な男ならモラル度外視でむしゃぶりつくだろう。
そんな魅力的な女が石丸には恐怖の対象でしかない。
「数日前まで元気な子だったのに急におかしくなって」
道すがら相談事をポツポツと語っていく杏に対して、距離をとってついていく石丸は完全に腰が引けている。
「そーなんでごじゃるかテーヘンでごじゃりまするね」
「意味不明なことを叫んで四つん這いで走り回ったり、ケモノみたいに唸って怯えてワタシに噛み付きますの。病院にも引っ張って連れていきましたが門前払いされ、キツネ憑きなんじゃないかって夫も困り果ててまして」
杏が素早く振り向いて石丸の胸にしなだれかかった。「きゃああっ」という悲鳴はもちろん石丸の声である。
「美形で凄腕の祓い屋さんが神社にいるって聞いて! 一縷の望みにかけて藁にも縋る思いで参りましたの!」
「おっ奥様おちついてくだされ全力つくすでごじゃる」
「まァなんて慈悲深い……でもウチは生活が苦しいの。依頼料がちょっと高い……代わりといえばカラダしか」
「そんなん初回サービスで無料でいいでごじゃるよぉ」
石丸とて慈善事業でやってるわけじゃない。
ただ一刻も早く女性とオサラバしたいのだった。
§
杏の案内で訪れたのは町外れの小汚い一軒家だ。
庭などロクに手入れもされていないのか草まみれで、家の壁一面にツタ状植物が張り巡らされて薄気味悪い。
「どうぞコチラですわ」
リビングには満杯のゴミ袋が所狭しと敷き詰められ、無数のハエが飛び回ってウジちゃんも床で踊っている。
奥の部屋の前で杏は立ち止まって石丸に説明をした。
「ウチの子は最近ずっと部屋に閉じこもっていますの。出てくるように言ってもイヤがってばかりで仕方なく」
「天の岩戸で御座るな」
そのゴミ屋敷バージョンと表現したいがやめておき、石丸は杏に許可してもらったうえでドアをノックする。
「入ってもいいかい?」
反応がない。
「入るよー?」
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