第一話「きみの合図」

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第一話「きみの合図」

(父・織田(おだ)視点)  遺産というと、違う気がする。彼女の遺したものは、果てなく大きい。また、それが〝もの〟である呼び方も、また違う気がしてならない。  俺に、五つになる娘が出来た。  出来たというのもまたおかしな言い方だが──それは、おいておこう。つい先日から、娘が出来たのだ。元妻の通夜にて出会った、容姿に元妻の面影を限りなく宿す、少女。 『人生、楽ありゃ。苦もあるさ……。』  目を赤く腫らし、水戸黄門の主題歌をつぶやくように。一音一音を大事にするように歌いながら、隣に子どもが居たときは、一体何事と驚いた。  しかし、子ども。少女が、親族の関係者であることは明白で──ほんとうに、元妻と似た顔立ちをしていた──とっさに、見た面影を彼女(元妻)と重ねて、喉の奥が詰まり。息ができなくなるほどで。声を絞り出し、その名を零して呼んでしまったほどだ。
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