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「颯真さま、どうでしたか?」
琥珀が舞を終えて颯真に近寄る。
「あ、圧倒されて。その、天女みたい、いや、雪の精? ごめん、うまく言えない」
「十分ですわ、颯真さま」
うろたえる颯真の様子に、琥珀はくすくすと笑う。
「白蘭の最後の舞を見ていただきたかっただけですから」
「白蘭?」
「私が賜った名です」
「新しい名前? 最後って?」
「私、『三巫狐』を辞めてきました」
「ええ!?」
驚く颯真の前で、琥珀は亜麻色の毛と琥珀色の瞳に戻った。
「私はただの『琥珀』に戻りますわ。新しい夢が見つかりましたから」
「新しい夢?」
「はい。私は颯真さまのおそばで一緒に働きたいです。人間の姿に変身できるようにもなりました」
琥珀は瞬時に、大きな尻尾と狐耳を消して見せた。
「それから、幽世での喫茶店の営業も提案します。幽世で営業すれば、颯真さまの能力を活かせますでしょう?」
「琥珀、僕のことも考えてくれてたの?」
「はい。私、ずっと颯真さまをお慕いしておりますので、きゃ!」
トクトクと鼓動が速まる琥珀を、颯真が抱きしめた。
「ありがとう。僕も琥珀を忘れたことはなかったよ。帰ってきてくれて嬉しい。けど、ちょっと寒さが限界。琥珀、続きは中で話そう!」
颯真はひと足先に家の中に入っていった。ひとり残された琥珀がトボトボと中に入ると、紗代が琥珀に声をかけた。
「おかえり琥珀ちゃん。ごめんね、あの子ってば鈍感で」
「紗代さまには私の気持ち、お見通しでしたか。大丈夫です。これしきのことで、めげてられませんわ」
琥珀は清々しいまでの笑顔を紗代に向けた。
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