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8.涙の別離
時は流れ、颯真は高校三年生になった。
颯真と琥珀の能力は、ともに誓いをたてた日から見違えるほどに進化していた。
蝉が騒がしく鳴く季節になり、颯真が寝ていると「颯真さま!」と琥珀が呼ぶ声が聞こえた。颯真は慌てて飛び起き、琥珀の部屋へ向かった。
「琥珀! 開けるよ!」
襖を開けた先には、真っ白の毛色に赤い瞳をした琥珀の姿があった。
予想もしなかった出来事に、颯真はその場で固まってしまった。しばらくすると、琥珀は元の毛色と瞳の色に戻っていた。
朝食時に、二人は紗代に早朝の出来事を話した。
「精神統一をしていたら、白い毛色と赤い瞳に変貌した?」
「でも、時間がたったら元に戻りました」
「うーん。琥珀ちゃんの能力が上がったから、かねえ?」
「だったらさ、もっと能力が上達すればずっと白い毛色でいられるんじゃない? そしたら琥珀、『三巫狐』に選ばれるよ、きっと!」
「そう、ですわね。私、もっと頑張りますわ」
身を乗り出して意気揚々と話す颯真の言葉で、不安げだった琥珀の表情に笑顔が戻った。
*
とても冷え込んだ冬の日、颯真が高校最後の冬休みを過ごしていると琥珀が暗い顔で帰宅した。
「颯真さま、私……『三巫狐』候補に選ばれました」
「ええ!? すごい! でも何でそんな顔してるの?」
「候補者は、同じ場所で寝食をともにするそうです」
琥珀は今にも泣きそうな顔をしている。
「それって、ここから出ていくってこと?」
颯真の問いかけに、琥珀は無言でうなずく。
「そうか。仕方ないね」
「颯真さま、嫌です。ううっ……私は」
ポロポロと涙を流す琥珀を、颯真がギュッと抱き寄せる。
「琥珀……泣かないで。琥珀がいなくなるのは僕も寂しい。でも、やっと夢が叶いそうなんだろ? ここは決まりに従うべきだと思う」
「颯真、さま」
颯真の言葉に二人で誓った夢を思い返し、琥珀は『颯真さまをお慕いしているのです』という言葉を飲み込み、家を出ていった。
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