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9.想いとともに
琥珀が家を去ってから早二年、颯真は本格的に喫茶店の経営に携わるようになった。年の瀬の日、紗代と颯真は新年を迎える準備に勤しんでいた。この日は特別に寒くて、昼間から雪が舞い始めたが、翌朝には雪は収まり青空が広がっていた。
「――さま。颯真さま」
まどろみのなか、颯真は名前を呼ばれているのを耳にした。目を開けると、煌びやかな髪飾りをつけ、神事用の巫女装束を身にまとった琥珀が微笑んでいた。
「こ、は、く?」
「こちらへきてください」
琥珀が白い毛色だったため思考が定まらない颯真だったが、琥珀に引っ張られるがまま外へ出た。
「見ていてくださいね」
琥珀は颯真に告げると、朗々と神歌を謡いながら巫女舞を始めた。晴れ渡った空に白い巫女装束と赤い袴が映える。遠くの雪雲から飛んできた雪が舞い降りてきた。太陽の光を受けた雪がキラキラと輝き琥珀を包み込む。
颯真は、夢心地で琥珀の舞を眺めていた。
「風花かい、珍しいね」
隣にたっていた紗代の声に、颯真は我に返った。
「紗代ばあ、いつの間に! 風花って?」
「晴れた日に舞う雪のこと」
「へえ」
「部屋、暖めておくから早めに中にお入り」と紗代はたち去った。
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