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2.プロローグ - 颯真 -
「颯真……バイバイ」
雪が降るなか僕に背を向けて告げられた。これが、僕が最後に聞いた母の言葉。
この日を境に、僕は祖母の紗代ばあと暮らすことになった。小学三年生のころだった。
僕には普通の人には見えないものが見える。それを『霊力』と紗代ばあは呼んでいた。紗代ばあは僕と同じ霊力を持っている。
僕の霊力のせいで両親の仲がこじれた。そして父と母は別れることになり、母は僕を手放した。きっと母は僕をどうすればいいのかわからなくなったから、紗代ばあに助けを求めたのだろう。
学校で、突然見えない何かの話を始めてしまう僕には友達がいなかった。今思えば怖がられていたのかもしれない。紗代ばあが霊力を持たない人との関わり方を教えてくれたお陰で、転校先ではひとりぼっちで過ごす時間は減った。でも霊の姿をじっと見つめたり、目で追ったりしてしまうクセが直らない。だから小学六年生の今でも親友と呼べる人はいない。みんなが遊んでいるとき、僕は図書館で本を読む。この時間が大好きだ。
ある冬の日、部屋で本を読んでいたら、裏口に通じる部屋から物音がした。紗代ばあは、和喫茶おぼろという喫茶店を経営している。まだお客さんがいる時間だから呼べない。ひとりで物音がした部屋へいくのは怖いけど足音をたてずに部屋の前までやってきた。
キイッと古い木の扉を開けると大きな尻尾と獣耳を持つ少女と目があった。
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