ミュゲの日

4/7
前へ
/7ページ
次へ
聞き返した俺の問いかけに、カミーユは一瞬困ったような顔をしたが、 「ルイーズ家とは…あの国とは…領地を巡り、過去何度も争ってきた歴史があります。…最近また…良くない噂を耳にする事が増えました。話し合いで解決出来れば良いですが…過去何度も、話し合いは無意味なものとなっております…。姻戚関係を結ばれる事は、どちらの国にとっても………近隣諸国にとっても…大きな意味があると思います…」 俺と目を合わせず、言いずらそうに答えた 「流石だなカミーユ。まだ本格的に政務に関わっていないというのに、情勢をよく把握しているし、その為に必要な事も理解出来ている。やっぱりお前は、俺よりずっと賢い」 そう言って頭を撫でてやると、その手をカミーユが掴み、 「子供扱いはお止め下さい。僕は…もう幼い子供ではありません。いつまでも守られるだけの存在ではありません。僕に出来る事など…何もないかもしれません…。ですが…何故、一言相談だけでもしてくださらなかったのですか…。せめて、僕と…ジュリアに……一言伝えてから…それでも…」 そう言って、俯いたままのカミーユの顔から、涙が零れ《こぼれ》落ちる 「カミーユ……」 体を抱き寄せて、頭と背中を撫でてやる 「あ…兄上!ですから、子供扱いは…」 「ははっ。そうだな。けど…多分お前と居る時は、俺も子供に戻ってるんだ。だから…純粋な気持ちでいられる。望めば何でも手に入る立場に近づいても、本当に大切なものが何なのか、見失わずに済む」 「………そうですか」 俺の腕の中から出ようと踠いて《もがいて》いたカミーユが、大人しくなった 「なあ、カミーユ。気兼ねなく話せる存在が限られる俺達にとって、ジュリアはとても大切な存在だ。そして、この国を実質支えていると言っても過言ではない程、代々この国の宰相(さいしょう)を務めているヌフヴィル家との関係を維持していく上でも重要だ。ジュリアは、男子に恵まれなかったヌフヴィル家の一人娘だ。俺とジュリアの婚姻というものが、時と共に現実味を増してきていたのは事実だ。だが、一度も具体的に話し合った事はない。王家にとって婚姻は重要だ。状況次第で、切り札となる事を誰もが理解しているからだ」 「……それは…よく理解しています」 腕の中で大人しくしたままのカミーユが答える 腕を放し解放してやると、 「ですが…。兄上のお気持ちはどうなるのですか?ジュリアの気持ちは…」 「俺の気持ちは変わらない。これからも、俺にとってお前とジュリアは、他の何にも代える事の出来ない大切な存在だ」 「ですが………」 潤んだ瞳を少し逸らし、意を決した様に再び視線を戻し、 「それは…僕では駄目なのでしょうか?僕がルイーズ家の姫と姻戚関係を結ぶのなら…それなら兄上はジュリアと婚姻出来ます!」 そう言って、縋る《すがる》様な目をしている 「ルイーズ家はこの婚姻の相手に、アメリア姫を指名してきた。正妃の第一王女だ。正妃の男子はリオン王子ただ一人だ。つまり、アメリア姫は、実質正統な王位継承権第二位のお方だ。それでもアメリア姫を指名してきたのだ。その精一杯の誠意には、こちらも精一杯の誠意で応えるべきだろう?」 きっと分かっているはずだ… それでもここまで言ってくれるのは… カミーユが優しいからだ
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加