来襲

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ジンは傷口が一気に熱くなるのを感じ、同時に鋭い痛みが鼓動と同じ律動で何度も押し寄せてきた。血は脇腹を抑える手を伝い、床にまで流れ落ちている。ウインストンを彼らに引き渡したくない。しかし為す術がない。痛みと悔しさで、銃口を突きつけられているこめかみがピリピリと脈打った。 「ウインストン、私がなぜお前の指示に従わねばならない?」 しかし返事は無慈悲なものであった。 「お前自身に手を下させないだけありがたく思いなさい。彼は友達なんだろう?」 「神父……お許しください……どんなことでもしますから、それだけは……」 「ウインストン、よせ。……テッド、彼を連れて外に出ろ。」 ジンはオデールの見せる殺意が、ハッタリなどではないことを分かっている。どうにか隙をついて、力を振り絞れば銃殺を免れるかもしれない。しかしこの男を捩伏せる力はもう無い。汗がしたたり落ちていく。痛みと絶望。死ぬには心残りがありすぎる。 ……そのとき、ガラガラと音を立ててシャッターが上がった。 「……?」 オデールが怪訝な顔を向け、「なぜ鍵をかけなかった。」と舌打ちした。 そしてシャッターを開けた人物が店内の惨状を目にした瞬間、ガラス戸を蹴り開け、一瞬の迷いもなくオデールに発砲した。耳をつんざくような銃声が響き渡り、ジンの頭上からパラパラと雨のような血が降り注いだ。 オデールがひたいを撃ち抜かれたとわかったのは、床に倒れた彼の頭を目の前で見たからだ。まぶたを半分開け、微動だにしない彼の鼻と耳から大量の血が溢れていた。 皆が呆然となり、静まり返る店内。発砲した男だけが慌ただしくジンに駆け寄った。 「イズミ……イズミ、お前刺されたのか?!」 「トラ……なんで……?」 自分が撃ち殺したオデールの死体の横で、それには目もくれずに声を荒げる。血を流すジンの姿を見て、男は我を忘れたかのように狼狽していた。しかしすぐさま着ていたシャツを脱ぎ、傷口を確認すると手慣れた様子で止血を始めた。ウインストンも駆け寄り、「ジンさん、ごめんなさい、ごめんなさい……」と何度も繰り返す。ジンは「君のせいじゃない。」と苦しげな声で笑った。 その様子を見てテッドも我に返り電話を取り出すが、この国の救急隊の番号が分からなかった。しかしここに来る道すがら、1ブロック先に夜間専門の診療所があったことをふと思い出した。 「近くに病院がある!ジンを抱いてそこまで行けますか?」 発砲した男に問う。 「ああ、行ける。」 男が「ちょっと我慢しててくれよ。」と言いジンを抱きかかえた。 「ウインストン、一緒に来るんだ。一旦ここから引くぞ!」 青年の手を引いて走り出し、男達は夜道を駆けて行った。その途中でふとオデールの電話を思い出したテッドは、すぐさまマットに電話をかけた。 「マット、無事か?わけはあとで話す、いますぐに安全な場所に逃げてくれ。でかいホテルのフロントとか、警察署の真ん前でもいい!」 息を切らせるのは走っているせいではない。彼も顔を真っ青にして、これまでになく恋人の身を案じている。 「それから念のため、ロビーに顔が割れてるジャレットさんの身の安全も確保しておく。博士に電話して、彼らにも安全な場所に居てもらうよう伝えてくれ。ハンターにはこちらから連絡して護衛に向かわせるから、ふたりの場所がわかったら奴らに連絡を入れて欲しい」 病院に駆け込むと、ジンはすぐに手術室に運ばれて行った。ジンのことを「イズミ」と呼びながら扉の真ん前まで彼を見届けたこの男は、いったい何者なのだろう。ウインストンは、何のためらいもなくオデールを射殺した男に恐怖心を抱きつつ、彼に対する疑問で頭がいっぱいになっている。 テッドがハンターへの連絡を済ませて電話を切ると、「どうしてこんなことになったんだ!」と男がテッドの胸ぐらをつかみ壁に叩きつけた。ギリギリと締め上げるかのように力を込めている。ウインストンが男を止めようとしたが、テッドはそれを制し、「全て私の責任です。……お詫びのしようもない。」と為すがままで力無く言った。
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