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ジャッキーによってようやく解放されたジャレットを見るなり、マットは顔をくしゃりと歪めて思いきり抱きしめた。ジャレットはその思わぬ表情と抱擁に驚くが、声を震わせて何度も謝る彼に、「あなたは何も悪くない。」と耳元でささやき、その背中をさすりながら抱きしめ返した。
「……そうだ、そんなことより……」
ハッと思い出して、抱きしめていたマットの肩をつかむ。
「ロビーの差し金で、あなたの家とオフィスに火をつけられたんです!」
肩をつかむ手がわなわなと震えている。しかしマットは「わかってます。」と力なくうなずいた。
「たった今、近所の人から連絡が来ました。ついでに早くもうちの前にカメラマンが来て、燃えているところをニュースで流されてる。」
「は、早く戻らないと……」
「いや、いま僕が駆けつけて行ってどうなることでもない。……怪我人が出ないことを祈るまでです。」
「でも……僕のせいなんです……僕がロビーに……」
今度はジャレットがみるみる涙目になっていき、手だけでなく全身を震わせた。しかしマットはかぶりを振って、「何もかも、あなたを巻き込んだ僕の責任です。」と言った。
「危ない目に遭わせてすみません。あなたが無事でいてくれればそれだけでいい。」
「マットさん……」
「博士が車の中でお待ちです。このあとはおふたりの街まで、ハンターに車で送らせます。マットさんの車も明日にはご自宅に届くよう手配しますから……とにかく、一旦車へ。我々の別の事務所にお連れしますから、そこで少し休んでいってください。」
「しかし、まだここから去るわけには……警察の聴取もありますよね?」
「"グリア"とともに、極力あなた方にご迷惑をおかけすることのないようにします。博士にはドラマのためのいい話題にもなり得ましょうが……あなたはごく普通の教育者ですから。あなたの立場に障ることはこちらも避けたいのです。」
「そんなことはどうとでも……」
「ジャレットさん、僕はこれ以上あなたに迷惑をかけたくない。正直この件に首を突っ込んだことに関して、途中から後悔しかなかった。解決してもしなくても、もうこんなことに関わり合うのは金輪際ごめんだ。」
マットに連れられ車へ向かうと、ジャレットの姿を見つけたザックがすぐに降りてきて、彼もまた駆け寄って強くこの身を抱きしめてきた。
「博士……心配させてすみませんでした。」
ジャレットがその肩に顔をうずめ詫びるが、ザックは何も言わずに、眉根を寄せて目を閉じている。こんなときくらいは泣いてみてもいいのにとマットは思ったが、この頑固な中年男はすんでのところで涙をこらえているらしい。しかし、見たことのない顔であることは確かだ。
車中では態度を崩さず気丈にしていたが、その顔にはありとあらゆる感情が溢れていて、きっと自分が表情分析の勉強をしていたとしても、今の彼の気持ちを説明することなどできない。唯一わかることは、ザックはこの年下の恋人を手放せないということだ。彼が傍らになくてはダメなのであろう。
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