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家がないので、しばらくはホテルに仮住まいをすることとなった。バウンティーハンターのオフィスがある区域で、通勤は徒歩でも10分とかからない。明日からどこか手頃なアパートを探して、決まり次第そこに移り住む予定だ。新たなオフィスの物件探しも合わせて、マットはしばらく不動産屋を行ったり来たりの日々になる。
それからつい先ほど、業界の仲間からオフィスを構えるまで手伝って欲しいとの声がかかったので、当面はアパートからやや遠方にある別のオフィスに、週の半分ほど臨時で勤務することとなった。テッドやザックからは少し休んだほうがいいと言われたが、これまでの多忙ぶりを思えば、新たな職場の勤務時間など取るに足らないものであった。
ホテルに到着するなり、マットはすぐにベッドに寝転んだ。仕事はなくとも、今日もそれなりにやることがあったため、くたびれている。昨日の夜、長い取り調べから解放されたテッドを迎えに行き、この部屋にたどり着いた瞬間このベッドに押し倒された。前夜のことが重なり、マットにはそこでようやく罪悪感のようなものが沸き起こった。
テッドは勘付いただろうか。何も言われていないが、マットには恋人にしか分からない自分の肉体の変化が無かったか、気にかかっていた。ジャッキーはキスマークも残していないし、精液も避妊具に放っていた。だがマットの肉体はしっかりと彼を受け入れ、よろこびを味わい、彼の形を思い出したのだ。そして昨日の朝、目覚めてからもまたもやセックスをしてしまった。シャワーできれいに洗い流しても、彼に与えられた感覚はこの身に残されていた。
それでもテッドに抱かれた瞬間、出所後にした彼との初めてのセックスを思い出した。
あの鮮烈な刺激と衝動を忘れることはない。7年も恋人だったのに、面会で見る顔しか知らなかったのだからなおさら強烈なのだろう。ダコタと呼ばれるのは嫌いだけれど、彼の腕の中で熱い吐息まじりに呼ばれるときだけは、この名前もそう悪くはないように思える。
この高揚は、やはりテッドしか産み出せない。愛してくれる男に抱かれることこそ、生まれてきた意味であると言ってもいい。馬鹿げていようが構わない。仕事も生活も、すべてはその幸せの下にある。テッド以上のものなど、この世のどこにもないのだ。
昨晩の疲れた身体で、テッドは年甲斐も無く夢中になっていた。マットが何度その身をよじらせても離そうとせず、半ば強引に、まるで拘束するかのように抑え込んでペニスで突き上げてきた。あの長い取り調べのごとくに恋人を解放せず、疲労しきったテッドよりも先にマットがぐったりとベッドに沈み込み動かなくなるまで、何度も肉体を求め、貪った。長らく、忙しさと疲労を理由にキスと抱擁しかしなかったが、彼はようやく理性を決壊させたのだ。溜め込んだものを放出するような交わりであった。
マットの求めるものは、毎日のセックスでも、餓えた囚人のような激しいセックスでもない。肉体を求め合う本能が残るうちは、互いを確かめ合うための定期的な交わりを維持できればそれでいいのだ。それがどうにも2人には難しかった。多くのカップルが直面する困難であろう。
だが、彼の激しさを久々に味わったマットは、やはり幸せだった。彼がまだこの身体に興奮して、このように熱烈に欲してくれたことが嬉しかった。出所後にした初めてのセックスを、彼は永遠に忘れない。愛してると言ってくれて、一晩中この身を抱いて眠ってくれて、自分は彼にとって必要な人間なのだと感じることができて、ひとりではないのだと確認できた。
だから決して、忘れない。
寝転ぶマットのとなりに腰掛け、テッドが髪を撫でた。
「こんなのも悪くない。ホテル暮らしに憧れてたんだ。映画の逃亡犯みたいなやつ。」
「ジンは2度とごめんだと言ってたけどな。」
「そりゃあ彼らは本気の逃亡だ。……ジンはどうやら疲れのせいで爆睡中らしい。心配はいらないと、トラヴィスから連絡が来た。」
「……僕らは彼らに対しても詫びようがない。」
「来週あたり、ふたりで会いに行こう。俺も休みを取るよ。」
「ジンに会ったら、君の悪口をいっぱい言ってやるんだ。」
「ジンもトラヴィスの文句を垂れるだろうな。トラヴィスと電話中の彼はおっかなかった。」
「僕もおっかない?」
「そうだなあ……朝の君は不発弾のようだが、まあ、扱いを間違えなけりゃいいだけだ。大した脅威じゃない。」
「……長いあいだ自由に会えないことが普通だったのに、一緒にいることが当たり前になったとたん、君と会えないことに苛立ちを覚えるようになった。」
「わかってる。」
「くだらないこと言いたくないのに、顔見たらいろいろ余計なこと言いたくなっちゃうんだ。」
「くだらないなんて思ったことはない。」
「でも僕はまだ大人になりきれない。」
「その方が俺にはちょうどいい。」
「君のこと守ったり助けてやれる男になりたいんだ。」
「ダコタ……出会ってから今まで、君はずっと俺の心の支えだったんだ。たとえ疲れた顔でも、その顔を毎日見られることが幸せだ。その上仕事まできっちりこなしてくれて、ちゃんと家に帰ってきてくれて、まだ俺のことを好きでいてくれる。これ以上何が要ると言うんだ。俺はこれ以上何も望んでない。無理やりにでも君を恋人にできて、過去の強引な自分にすら感謝してるほどだ。」
マットの頬にキスをする。
「あと10歳…いや、5歳でも若ければって、どうにもならないことを何度も考えてる。1日でも長く君と居たい。会えない日があったなら、その分余計に長く生きたい。……君を失いたくない。」
マットの胸に顔をうずめるように、テッドも寝転がって抱きついてきた。頭ごとぎゅっと抱きしめ、子供のように撫でてやる。
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