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販売員との間に挟まれていた右手を引きずり出し、肩を揺さぶってみると生気のない顔がダラリとこちらに向いた。
「……っ!」
良介は声も出せなかった。
販売員の目は大きく見開かれ、頭の一部がひどく陥没していた。
そこから大量の血が流れ出ている。
飛んできたカートの角か何で、頭を押し潰されたのだろう。
急いで販売員を押しやろうとすると、血と欠けた頭の一部が顔に降り掛かってきた。
良介の顔が青ざめていく。
それでもこうしてはいられない。
無我夢中で販売員と、その上に重なっているカートやスーツケースなどを押しやった。
ようやく立ち上がれた時、身体中のあちこちが痛みを訴えてきた。
特に左腕には激痛が走っている。
見ると、肘下の皮膚が内側から突き上げられるように盛り上がっていた。
同じ車内にいる人達も、ほとんどが血だらけだ。
視界に入った窓の外に目を向けた時、良介は愕然となった。
すぐそこにあったのは、同じ列車の別の車両だった。
列車が『く』の字のように折れ曲がっている。
脱線でもしたのだろうか?
「……ゆ、結菜」
急いで元いた車両に向かう。
途中、座席でうずくまる者、血を流している頭を抱えている者、ぐったりと動かない者、通路にも多くの人だかりができていた。
ここでも呻き声や悲鳴、怒鳴り散らす声が飛び交っている。
「すみません! 通してください! すみません!」
良介は人の波を押しのけて進んでいった。
元いた車両に戻ってきた時、良介の足が止まった。
前のほうに目を向けたまま、足がすくんで動かない。
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