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「やめろ!!」
滴った汗が上靴にポトリと落ちた。すると、呪縛が解けたかのように、急に思考が現実に戻った。
弾かれたように叫び、駆け出す。ぱっと二人が顔をあげる。
「え、え、のろのろ、先輩?」
なんだよ、蓮斗の前でも僕のことを陥れようとするのかよ。
「蓮斗やめろ、こいつはやめろ!!」
「しっ、慎吾? どうしたんだ」
僕が蓮斗の制服の胸元をつかんで訴えると、蓮斗は困惑したように眉尻を下げ、心地の良い声音で僕の名を呼んだ。
「なにか勘違いしていないかい? なにも、カツアゲをしようってわけじゃない。希美ちゃんから、想いを伝えてもらっただけだよ」
俺を心配してくれたんだね、ありがとう。と蓮斗は微笑む。あぁ、騙されかけているこんな瞬間でも、蓮斗は優しい。
「俺、彼女の想い、ちゃんと受け止めたいんだ」
そう言って、希美の方へ向き直る。何を思ったのか、希美も蓮斗を見つめる。
「蓮斗先輩……」
れんと、せんぱい?なんだ、他の先輩にはあだ名では呼ばないのか。蓮斗にも「はすっち」というあだ名があるのに。それだけ僕を軽く見ていると。そういうことか。
「希美ちゃん」
蓮斗が希美をいとおしそうに見つめて微笑む。
背中がゾクリとした。ハア、ハア、と自分の呼吸が荒くなっているのを感じる。
このままでは、蓮斗が希美のものになってしまう。きっと希美に邪魔されて、前みたいに、普通に話せなくなる。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「希美…‥」
掠れた声で呼ぶ。弱々しくも歩を進める。
「慎吾?」
蓮斗がこちらを向き、眉根を寄せて怪訝そうに言うが、今回ばかりはどうでも良い。
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