22人が本棚に入れています
本棚に追加
「せんぱい……」
甘ったるいその声に振り向くと、目の前で希美が瞳を潤ませ手で口を覆っていた。
それが視界に入った途端、どこかで自分の何かがボロボロと崩れ去った音がした。
「蓮斗先輩……」
「希美ちゃん……」
希美が泣きそうな顔で蓮斗を見つめる。
それを愛おしそうに見た蓮斗が、ゆっくりと歩を進める。
眺めているだけのはずなのに、凄まじい嫌悪。胃がぐるぐるする。気持ち悪い。吐きそうだ。
熱に浮かされたように頭がグワングワンする。視界が揺れる。
蓮斗を一番知っているのは僕なのに。蓮斗が昔からずっと優しく接してくれるのは、僕だけなのに。希美なんかより、僕の方がずっとずっと近くにいるのに。
ぐちゃぐちゃになった脳内をかき分けるように、突然、頭に電流が走った。
希美が消えれば、問題解決だ。
なんて素晴らしい考えだろうか。
僕にとって希美は邪魔だ。蓮斗は少しくらい悲しむかな? 想いを受け取っていたし、優しいから。でも、絶対に蓮斗にあいつは釣り合わないから。
人を見下して、ずっと凶悪で、性格に仮面をかぶって蓮斗に近づいてだまそうとして、欺いて……。
こうして思い返してみれば、やっぱり希美はとてつもなく悪い奴じゃないか。
夕日がまた姿を現して、一気に部屋の中が明るくなる。僕の目の前で、そっと優しく希美の頬に触れようとする蓮斗の顔が、オレンジ色に染まった。
それを間近で見てしまった僕は、せっかく晴れた頭の中までも、ぐるぐるにかき混ぜられたような気分になった。
希美を消す、希美を消す、希美をケス、希美ヲケス、キミヲケス、キミヲケス……。
蓮斗が希美に触れる直前、自分で考える間もなく身体が動いた。
最初のコメントを投稿しよう!