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シャルロッテはゴクリと唾を飲み込んだ。
緊張と不安で末端が冷え、足の裏がふわふわのクッションになったようにおぼつかない。
そうして彼女が顔面蒼白でいると、口を開いたのはスワードだった。
「つまり、普通なら命の危機でリミッターが外れるところを、なぜか君は感情の昂りで外れてしまう。しかもリミッター解除後に力が制限されないから、人間が持つ力の100%あるいはそれ以上の力が出せてしまう。ゆえに怪力が発動される……という仮説だな」
「リミッターを意図的に解除できたら兵力爆上がりっすね」
「せやな。闘志で解除できるように訓練法を練り直しまひょか」
シャルロッテにはアルター達の楽しげな声は聞こえず、とうに茫然自失していた。
その「リミッター」とは今から直せるものだろうか、と次々に不安が押し寄せて気が遠くなる。
体はスワードの方を向いているけれど、では彼を見ているかと言えばそうでもなく、シャルロッテはただ空気を見ているのだった。
「シャルロッテ・シルト、こっちに来い」
椅子に腰掛けたままのスワードはシャルロッテを側に呼び寄せ、彼女の冷たい手を取った。そして被害物に感心するムンテーラに問う。
「ムンテーラ、要はリミッターが外れないようにすればいいのだろう?」
「せやな。昂る感情をコントロールして怪力を制御できればええっちゅーことですわ」
「では、まず昂る環境が必要だな」
スワードに顔を覗き込まれたシャルロッテは石化した。それはもう、今朝の石像を彷彿させるほどに。
さて、ここで一度おさらいをしよう。
シャルロッテが固まるのは非常に良くない兆候だ。それは感情が昂っている証拠であり、もうすぐ怪力発動することを意味している。
シャルロッテはスワードの笑顔と手の微熱に、「緊張」と「興奮」で全身の産毛が逆立つのを感じた。怪力が、来る。
同時にシャルロッテは気がついた。
怪力令嬢の手が、スワードにしっかり握られている。
しかしその破壊の手は発汗するのみで、スワードの手を損じることはなかった。
「聞いているのか? シャルロッテ・シルト」
「手っ……手はご無事ですか!? 痛みは!?」
「ん? ああ、見ての通りだ」
スワードは涼しい顔で答えた。
シャルロッテは恐ろしくて試すことがなかったが、どうやら怪力は肉体に害を及ぼすことはないらしい。
それを知れただけでも大大大収穫で、早朝からずっと強張っていたシャルロッテの顔がようやく綻んだ瞬間だった。
スワードはシャルロッテの小指に自身のそれを絡めた。
「か弱くなる訓練は必ず二人三脚にしよう。私達は常に一緒にいるんだ」
「……あの、わたしの聞き間違いでしょうか。今『常に』と聞こえたような……?」
「ああ。つ・ね・に、一緒だ」
(そっそんなことしたら、常時昂りっぱなしよ? わたし死なない? ねえ大丈夫!?)
「何か問題でも? 言ってみろ」
「〜〜〜〜いっ、いいえ何も!」
「そうか。なら良いんだ」
スワードの眼光は圧倒的なオーラを孕んでおり、シャルロッテの異議申し立てを受け入れる様子は微塵もない。
縮み上がるシャルロッテを見上げてスワードは、愉快爽快と言わんばかりに笑った。
「ははっ! さて、どうやって君を昂らせようか。楽しみだな」
その頃、空では雲間から日が差した。
それはシャルロッテとスワード、2人のはじまりを照らす道標のようであった。
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