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“被支配階級が、支配階級を倒して政治権力を握り、国家や社会の組織を根本的に変えること”を指す言葉よ。
「まず自己紹介からしよっか。アタシは……——」
「ミネルバ=ダントルトンだろ。知ってる」
「……そうだね。そんな“ミネルバ”の話をしようか」
彼女は一度瞳を閉じると、ゆっくりと開いて饒舌に語り始めた。
「ミネルバはこの国に嫁いできた。正確に言えばこの国の王様にお願いされて嫁いできた。ミネルバの生まれた王国は、産業が豊かなの。アナタ達が革命に使った大砲、あれはアタシの国から買い付けたものでしょう?」
「……そうだ。イリアーナ王国の貿易商から秘密裏に買い付けた」
「うんうん、分かるわ。イリアーナ王国の武器商人は戦争や革命が好きなのよ、だって自分の武器がよく売れるんだもの。
ミネルバがこの国に嫁いだのはそれが理由。ミネルバがお嫁さんに迎えられたことによって、持参金としてこの国に齎されたのは大砲50門。凄いでしょう? この国の王様は武力が欲しかったのよ。贅沢をするための武力がね」
クスクスと、少女が笑う。王族が嫁いでくるのにそんな取引があったなんて知らなかった俺は少し驚いた。
「でもこの国には大砲を撃つための火薬が無い。作る技術が無い。だから火薬をミネルバの国から買い付けてる。アナタ達が革命で大砲を使う時にそうしたように。
ミネルバが嫁ぐのをパパが了承したのはそれが理由なのよ。この国の王様が武力を強化しようとして火薬を求める度に、ミネルバの国の権威は強くなる。『火薬を打って欲しければこちらの要求を飲め』ってことが出来ちゃうの。その要求は、どんどん大きくできる」
「……つまり、お前は『自分は巻き込まれただけだ』と言いてぇのか?」
「違う違う、王族に生まれたんだもん、ミネルバは覚悟してたよ。いずれ売られることも、売られた先でどれだけ冷遇されるかも、男に身体を暴かれて子を産まされる事も。覚悟して、この国に嫁いできた。案の定、この国の人間は皆“他国の人間”と呼んでミネルバを嫌ったわ。アナタもそうでしょう?」
図星だった。彼女がこの国に嫁いできた日、国民は誰も花嫁が乗った馬車を見に行こうとはしなかった。俺達は今日食べるものにすら困っているのに、そんなことも知らない呑気な女が王族に加わると思うと怒りすら覚えていた。
「それにこの国で革命が起こることは分かってたんだよ。武器の流れも知ってた。それでもミネルバに決定権は無かった。彼女は全てを受けいれた。
自分が口を閉ざせば喧嘩は起こらない。自分が耐えれば諍いは起こらない。事勿れ主義でも日和見主義でも無いわ、ミネルバは“それが王女として求められていること”だと知っていたから口を閉ざしていたの。そしてこうして革命に抗わず捕まった。死ぬことも、ミネルバは受け入れている。それが王族の義務だから」
「……つまり、何が言いてぇんだよお前は」
「そんなに結論を急がなくたっていいじゃないの。朝はまだ先なんだから」
少女はまたクスクスと笑う。ちらりと、彼女が眼前を走るネズミを見た。だがすぐにまたこちらへと視線を戻す。
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