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少し言い過ぎたかとダビンチは思ったが、しかし、情にほだされて許されるレベルの小噺ではないと思い直した。この小噺で笑ってあげることはクニオ君の為にならないとダビンチは心を鬼にしようと決めた。
「君がそのレベルの小噺しか持っていないんだったら、あとは質より量だからね」
「え?」
「こうなりゃ、数打ちゃ当たるだよ! さ、どんどん小噺やって!」
「わ、わかりました!」
グイっと涙を拭ってクニオ君は最後のチャンスと覚悟を決めた。
「この前、机の上の電気スタンドの電球が切れたんで、『おい! スタンドに入れる球持ってきて!』って言ったら、ホームランボール持ってきやがった!」
「よし! 面白くない! 次!」
「この前、友達がいきなり『お茶でも飲むかい?』って聞いてきたから『え? どこにお茶があるの?』って聞いたら、へそで茶が沸いてるぜって言いやがった」
「よし! 面白くない! 次!」
「……」
クニオ君は黙ってしまった。
「次だよ! 次!」
ダビンチが手を振って小噺を促した。しかし、クニオ君は唇をワナワナと震わせるばかりで小噺をしようとはしなかった。
「……もうないです……」
「ない!?」
出し切って憔悴したクニオ君がコクリとうなずいた。
「たった、あれっぽっちで終わりか!?」
「あれっぽっち……」
「クニオ君ねぇ~」
ダビンチはクニオ君の胸を人差し指でドシドシとつついた。
「笑えない小噺しか持ってない。しかも、その数も少ないって、お笑い芸人として、やる気あるの?」
クニオ君の頬を涙がツーと流れた。それでも構わずダビンチは胸をつつき続けた。
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