新人女優 取り違え殺人事件

20/20
前へ
/20ページ
次へ
取り調べは続いた。 二日酔いもようやく醒め、私はだんだん記憶を取り戻してきた。 私はテレビドラマに出る…… そうか、そうだった…… 私はすべてを思い出した。 美織がテレビドラマに出るなんて悔しい…… 一緒に女優を目指してきたのに、美織だけ認められて、私は認められないなんて悔しい…… 悔しい……悔しい……悔しい…… 「演じていると思われるようでは女優としてはまだまだ。その役そのものだと思われるようでないと」 その言葉を私も美織も、いつも口にしていた。 私は美織に憧れていた…… 私も美織のように、女優として輝かしい人生を歩みたい…… 私も美織のようになりたい…… そう、私は美織……榛名美織…… 私は榛名美織を演じていた。 いや、演じているようではまだまだ。 榛名美織そのものになりきらないと…… 美織のマネージャーの連絡先なんて、私の携帯に入っているわけがない。 自分の電話番号やメールアドレスをアドレス帳に入れていないのも当たり前だ。 さっき、チーフから電話がかかってきていたっけ。 そっか、あれ、私のバイト先のチーフからだったんだ。 そうだった。 私は坂川由香だった。 私は自分の昨夜の犯行を、すべて、はっきりと思い出した…… * * * * * 心にもないお祝いを言う私。 「テレビドラマ出演決定、おめでとう!!」 「ありがとう、由香」 ……由香って誰? ところで、なんでここに美織がいるの? 美織は私でしょ? 私がテレビに出るのよ…… あなたは誰? 私は美織よ。 美織が二人いたらダメよね…… あなたは消えてね……だって、美織なんだから…… 私は台所から包丁を持ってくると、美織を消した。 そして、部屋に火を放った。 これでいい。 だってね、演じているようではまだまだなの。 そのものにならないと、ね。 《 了 》
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加