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取り調べは続いた。
二日酔いもようやく醒め、私はだんだん記憶を取り戻してきた。
私は榛名美織としてテレビドラマに出る……
そうか、そうだった……
私はすべてを思い出した。
美織がテレビドラマに出るなんて悔しい……
一緒に女優を目指してきたのに、美織だけ認められて、私は認められないなんて悔しい……
悔しい……悔しい……悔しい……
「演じていると思われるようでは女優としてはまだまだ。その役そのものだと思われるようでないと」
その言葉を私も美織も、いつも口にしていた。
私は美織に憧れていた……
私も美織のように、女優として輝かしい人生を歩みたい……
私も美織のようになりたい……
そう、私は美織……榛名美織……
私は榛名美織を演じていた。
いや、演じているようではまだまだ。
榛名美織そのものになりきらないと……
美織のマネージャーの連絡先なんて、私の携帯に入っているわけがない。
自分の電話番号やメールアドレスをアドレス帳に入れていないのも当たり前だ。
さっき、チーフから電話がかかってきていたっけ。
そっか、あれ、私のバイト先のチーフからだったんだ。
そうだった。
私は坂川由香だった。
私は自分の昨夜の犯行を、すべて、はっきりと思い出した……
* * * * *
心にもないお祝いを言う私。
「テレビドラマ出演決定、おめでとう!!」
「ありがとう、由香」
……由香って誰?
ところで、なんでここに美織がいるの?
美織は私でしょ?
私がテレビに出るのよ……
あなたは誰?
私は美織よ。
美織が二人いたらダメよね……
あなたは消えてね……だって、私が美織なんだから……
私は台所から包丁を持ってくると、美織を消した。
そして、部屋に火を放った。
これでいい。
だってね、演じているようではまだまだなの。
そのものにならないと、ね。
《 了 》
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