なぎさ凪

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なぎさ凪

「っし、今日の投稿終わり―っと」  ぐーっと伸びをすると、冷めてしまったコーヒーを飲み切る。  まずくもうまくもない真っ黒の液体を飲み切ると、SNSに投稿した小説リンクを貼り付けた。フォロワ―数とフォロー数、共に二桁の小さなコミュニティだが、俺にとっては大事な場所だ。 「あ、魔法少女マホさん読んできますってリプくれてる!嬉しいなぁ」  電気代節約のため、暖房を切って冷え切った部屋で心が温かくなる。魔法少女マホさんは一番最初に相互フォローになってくれた人だ。  雪は振ってないけど、今夜はかなり冷える。タイピングした指が冷えてしまったのでこたつの中に手を突っ込んでぐーぱーと繰り返した。  誰にも読まれないBLエロ小説を書き続けてそろそろ一年になる。書き上げるのは毎回一万字に満たない短編だし、バズる事もない。そりゃあ脚光を浴びたくないかと言われれば嘘だけど、あくまで趣味で書いているだけの代物で、それをこうやって少ないけど読者が読んでくれるのは幸せな事だと思う。  指がじんわり暖かくなってくると、魔法少女マホさんからまたリプが来た。読後の感想をくれるマホさんは、本当に良い人だ。 『なぎさ先生、今回も受ちゃんとっても可愛かったです!喘ぎ声たどたどしくて可愛い!』 『マホ先生読んで頂いてありがとうございます。私も次の休みにマホ先生の長編読み切ります!』  魔法少女マホさんは俺と違い、長編BL小説を書いているウェブ作家だ。フォロー当初から活動的で、広報活動もしている精力的な人だ。 『ありがとうございます!なぎさ先生、今度の土曜BLオフ会するんですが、いらっしゃいませんか?場所は都内です!』  そしてこうやってオフ会にも誘ってくれる良い人だ。  だけど、俺はこれを毎回断っている。 『すみません、土曜仕事でして!マホ先生たちには是非お会いしたいんですが、毎回タイミング会わなくて申し訳ないです』   『ありゃー残念!なぎさ先生お仕事忙しいですもんね!ご自愛ください。また機会がありましたらお誘いしますね!』 『是非お願いします!』  小さくため息をついた。マホ先生や、マホ先生が仲良くしているBL小説家さん達に会いたい気持ちは本物だ。同人誌を作ったり、ウェブで販売したりしている人たちでそんな話も直に聞いてみたい。だけど…… 「多分、皆女性だと思うんだよなぁ……」  ハンドルネームなぎさ凪・本名楢本渚(ならもとなぎさ)の俺は、明日着るスーツを見て小さくため息をついた。
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