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楢本渚
「やば!?寝過ごした?!ってスマホも充電出来てないしー!」
テーブルの上には数枚減った漬物の入ったタッパーと、空になった発泡酒の缶が転がっている。ノートパソコンは開いたままだ。
慌てて電源を切って、出社準備をした俺は、充電の切れたスマホを持って電車に飛び乗った。
今日は電車の中で魔法少女マホ先生の小説の続きを読もうと思っていたのに、充電切れなんてついていない。
仕方長い。こっちに来る二年前に購入したこのスマートフォンはそろそろバッテリーの持ちが悪くなっているのだから。
申し訳ないが会社で充電させてもらおう。なんて呑気にその時の俺は思っていた。
「楢本くん、髪の毛伸びて来たんじゃない?そのまま伸ばすの?それとも切るの?」
デスクにカバンを置くと、上司が声を掛けてきた。
「え、えーっと……切った方が良いです……か?」
「ん-……前髪伸びて来てるから、目にかかったらばい菌入っちゃうかなって思って……ってこれセクハラになっちゃうかな!?ごめんね。うちの子供が最近めばちこになっちゃって気になったから」
顔の前で手を合わせる上司に、同僚たちが次々とフォローを入れている。育休を開けて復帰してきたばかりの上司は本当に良い人で、ミスが起こらないように目を気を配り、ミスした場合のリフォローも完璧だ。上司ガチャはSSR。同僚たちだって気が良い人が多く、本当に職場には恵まれていると思う。
「楢本くんもランチ行かない?近所に安くていいお店見つけたんだよ―!」
同期も陰な俺にも昼休みのごはんに毎回誘ってくれるくらいの良い人たちだ。
「ありがとうございます。でも俺充電無いから会社で充電したくて……」
「あ、充電器俺あるよ?貸してあげるからランチ行こうよ!今日お弁当持ってなかったでしょ?」
「……あ、えっと……」
返事に困っていると、ぐーきゅるるると俺の腹が鳴った。恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
「ほら、体は素直じゃん!皆で行こうよ!」
同期に手を引かれ、俺は同期達とのランチに参加した。普段はお弁当を作ってこのイベントを回避しているのだが、たまに今日の様にお弁当を忘れてしまう事があり、そういう時は回避の手段が無いのである。
同期達は悪い人たちではない。むしろ良い人たちだ。ランチ中の会話も振ってくれるし。でもなんだか皆都会を楽しんでいて、キラキラしていて、俺には眩しすぎる。それだけの事だ。
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