消し屋の竜胆(りんどう)

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その夜。 (まぁ、所詮は噂だよね) そんな事を考えながら、ベッドに横になり、スマホで検索をする私。 調べているのは、『自殺以外でこの世から消える方法』だ。  と、不意に、甘く()せ返る様な香りが、私の鼻孔に届く。 「…………?」 ――おかしい。 今日、加湿器内の水に混ぜて使用しているのは、柑橘系のアロマオイルの筈だ。 私は、香りがする方を振り返る。 すると、私の視線の先――窓辺にゆったりと腰掛ける少女と視線がぶつかった。 「この世から消えたいとは、随分穏やかじゃないねェ」 台詞とは正反対に、愉快そうに笑みすら浮かべながらそう告げる少女。 彼女は、煙管(きせる)をくわえたまま、窓辺から私の部屋の中へと足を踏み入れた。  瞬間、開け放たれた窓から吹き込む風に乗り、少女が羽織る着流しがひらりと(ひるがえ)る。 少女の物にしてはかなり大きいそれは、目の覚める様な美しい蒼だった。 蒼の地に、極彩色(ごくさいしき)で不動明王が描かれている着流し。 その裾を揺らしながら少女は私に歩み寄ると、煙管で私の顎をくいっと持ち上げてくる。 そうして、紅をさした様に(あで)やかな唇をニッと歪め、こう言った。 「あんたがあたしを呼んだんだろう?消し屋の竜胆(りんどう)とはあたしのことさ」
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