今、春が来て

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それなのに。 作詞だけは、紙とペンがあればすぐに書けると思われている。 作曲等と違って、ちょっと面倒だけど簡単だと。 分かってる、全ての人がそうじゃない。 曲より歌詞を見てくれる人もいる。 だけど、歌詞なんてどうでもいいと言う人は確実に存在するんだ。曲なんてどうでもいいと言う人はいないのに。 そしてあんな事が言えるって事は、雪村氏もその中に入っているんだろう。 ずっと担当してくれていたミュージシャンを外して、いろんな作家から提供を受けようとしているのも、単純に話題作りのためだろう。 もし本当に俺の歌詞を気に入ってくれたのならなぜ、時間がかかってもいいから良い物を書け、適当になんて許さん、と。 あるいは、絶対に手を抜くな、時間が無くても良い物を期限までに作れと、それがプロだと言ってくれないんだ。 ……ああそうか、プロだからだ。 プロだから、何とかして注目を集めてオレクロを売らなきゃいけない。あちらからすれば何も間違っていないんだ。 それに、雪村氏は秋葉と一緒にウィンタムとして、と言ってくれた。 秋葉は俺なんかよりずっと才能があるんだ、あいつを埋もれさせてたまるか。 面倒な事は考えるな。オレクロはまだまだやって行けるグループ、これはチャンスなんだ。 いつか後世に残る様な歌詞を書きたいとか、歌詞の大切さを知って欲しいとか、そんな事はこの際それこそどうでもいいじゃないか。 プロになれ。 子供達が自撮り動画で踊ってくれる様なキャッチーなフレーズを、流行に乗った売れそうな歌詞を…… ポロロン…… 防音対策をしてあるのに、窓の外からもギターの音が聞こえた気がした。 誰だ、いや、そんなの決まってる。
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