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厄除師見習いの彼女
世の中には、〈境界線〉というモノがある。超えた先の味を知ったら最後、後戻りできない。
ーーそれは、一途な気持ちも同じ事。
◇◇◇
厄除師として独り立ちする時は【公主様】に挨拶しなければならない。
ーーそれは昔から決まりだそうです。
私、【丑崎 なつり】は17歳にて、やっと家元(父)から厄除師としてのお墨付きを頂き【公主様】にご挨拶にお伺いに行こうと目的地に向かっている最中です。そして……、
現在、絶賛迷子中です。これが私の目の前の現実です。そう、現実なのです。
父から聞いた話しですと……公主様は普段、探偵事務所で依頼を頂いているそうです。
それを〈受け子〉さんに伝言し、その受け子さんから聞いた依頼を私達、厄除師が処理をしております。(簡単に説明すると厄物の処理 放題の事ですね☆)
厄除師の仕事貰える流れは、こんな感じですね。
国もしく一般人
↓が依頼
【公主】
↓が伝える
『受け子』
↓裏で依頼する
「厄除師」が隠密に処理する
世間で言うと……私達は基本、雇用形態は業務委託になります。
上級者になりますと依頼をお任せされる事が多くなり正社員かアルバイトの選択ができます。それには、これからお仕事を頂く前に顔合わせ基、適正診断を受けなければなりません。
その為に、行かなければならないのに…………此処は何処なんでしょう?
どうしましょう……?このままでは家元に顔向けできない。
県外から都会に来たのですが……。
空気は湿気の生温かさ以上のしつこさと、香水と排気ガスなどの色んな香りが混ざり合い、鼻腔に絡みついて気持ち悪い。
アスファルトの照り返しで、日差しの暑さがしつこく身体に突き刺さる。アイアンメイデンの中にいるのかと思うくらい私の表皮を貫きとても痛い。
周りの空に届きそうな高いビルばかりで、私の存在がより小さくゴミのように感じるくらい圧倒されてしまう。
それに今歩いている場所である、人が多すぎるスクランブル交差点。忙しなく渡る人達の不揃いな歩幅についていけずに、よろめきそうになってしまう。
私の中で異世界過ぎて、ーー怖い、の一言。
(お父さん、ごめんなさい!
〈厄除師〉として他の人より成長が遅いうえに、鈍臭い私には無理です。役立たずで……ごめんなさいッッッ!!!)
私の地元より暑い場所に目眩を起こし、耐え切れず近くのビルの裏道の隅へ入る。賑やかすぎる入り口から離れようとおぼつかない歩きで、路地裏の奥へ、奥へ、と少しずつ歩を進めていく。
やっと耳障りな音達から解放された私は、ロングワンピースのスカートを、纏め膝を曲げて座り込んだ。ノーススリーブの肩出しの服装でも、暑過ぎた為か肌がいつの間にか薄ら赤くなっており先程より痛みが増している。
喉が異常に乾き、300円圴一で有名なお店で購入したトートバックから自宅から持ってきたドリンクボトルを取り出す。
自宅から入れてきた地元のお茶を、一口含む。慣れ親しんだ味が口の中に、……ふわり、と広がりつつ喉にゆっくりと通ると今の私の気持ちを落ち着かせる。
もう一口飲み、暫くすると少しパニックになっていた思考と心拍数が落ち着きを取り戻し正常に戻ってくるのを感じた。
私は今だに地面に座り込みながら、無意識に顔を俯く。
(これからどうしようか……スマホで検索しても引っかからないし。上手く【能力】が発動できない……。かれこれ数時間、周辺を歩いて体力の限界)
知らない土地で、いい歳での迷子。
もう……、恥ずかしくて泣きそうになる。
「耀ちゃん……、陽介くん。私……二人みたいに、上手くできないよ……。
二人と同じように肩を並べて、厄除師になれなくてごめんなさい……」
現在、一人しかいない音の無い路地裏内。
周りの寂れたビルの間にて、私の独り言は小さく響く中。
空気に溶けるように徐々に消えていったのでした。
そんなある日の、午後の一時の出来事。
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