目的地へ

1/1
前へ
/17ページ
次へ

目的地へ

     出会った青年、神龍時 嵐の探知能力のおかげで目的地である、事務所に辿り着けそうになっている現在。  目的地は、丑崎が座り込んだ場所から50m先にあった。  辿り着くまで、昔は盛んだっただろう此処居酒屋通りは、閉店のお知らせが多く貼られていた。時折、〈ランチタイム 終了〉と看板が出ている店がちらほら数件と掲示されている中、ある店は〈居酒屋 マリリン。本日のおススメ: 【鮪のカルパッチョ】 開店時間 十七時より〜〉というお知らせも目に入った。  現在は人気の無い薄暗い路地裏。 ーー過去の残骸というべきか。  そして右側をふと見ると違和感を感じた。  上手く言えないが、奇妙な〈何か〉を感じた彼。  建物は築三十年くらいだろうか、かなり錆びれており外壁塗装は白だったものが汚れて所々灰色がかっている。  一階の右側に細い入り口扉に小さく〈探偵事務所〉とゴシック体で記載されており、残りの左スペースは車一台分入れるくらいの駐車場になっていた。両隣の建物より小ぢんまりとして主張が乏しい。   ふと右上を見上げると、二階の窓は昭和の時代を感じさせる縦型の看板が設置されていた。年期の入った社名入りの看板は汚れおり、嫌でも目に入ってしまう。 〈よろず探偵事務所〉と記載されているゴシック体文字の看板名。  そして、嵐は直感した。 (の目的地は此処なんだろうな。……なんとなくだけど)  今回の件を他人事のように彼は、心の中で一言、ボソリと言葉にする。 (それにしても……。この路地だけ、現代に置いてかれたって感じだな……。 すっげぇ……空気が昔のようで懐かしい。帰りたくなっちまうなぁ………)  特に、この空間の香りがだ。  現代へ帰りたくないと気持ちにさせてしまう。昔の商店街にあった肉屋のおばちゃんが揚げたコロッケの香りに似た、懐かしく感じさせる匂い。  時代が変わるにつれて日々、土地の空気は良い意味でも悪い意味でも徐々に変わる。   ある占い師が【土の時代】、【風の時代】とかテレビ番組で言ってた事をふと思い出した。  だが、この路地だけは……薄暗い裏道に溶け込んでいて、今の時代に取り残されていると言ったら良いのか分からないが……。   此処だけが時が止まってるかのように感じた嵐だった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加