653年後の未来を守るために

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「現在のあなたはそうですが、卒業してから15年後に改めて大学に入り直すのです。そこで遺伝子工学を学び細菌兵器を作り出したのです」 「なんで俺がそんなことするんですか!」 「調査部の調査でもはっきりした理由は特定できませんでした。ただあなたがカルト的な思想を持ち、大学に入り直し細菌を作るのは事実です。そしてそのカルト思想と細菌を受け継いだ人間が653年後の悲劇を起こすのです」 「ちょっと待ってください。それだったらその人たちを殺せばいいんじゃないんですか」  結構ひどいことを言っているが自分が殺されないために田中は必死だった。 「実験部によるシミュレーションでは、実行犯を殺しても別の人間によって悲劇は起きたのです。何十万とシミュレーションを繰り返した結果、あなたを殺すことでしか653年後の悲劇を防ぐことはできなかったのです。その結果に基づき私たちが派遣されました」  田中の冷静な部分はこの話の一部を納得していた。  人口の1/10を殺す大厄災の原因の1人を殺す。多くの人間が助かるのであれば1人の犠牲はやむを得ない。でも、その1人が自分であれば納得するわけにはいかない。しかも現在の自分ではない自分。 「そんなことしません。そんな話を聞いたら大学に入り直すことなんてしません。そうすれば僕を殺す必要ないでしょ」 「残念ながらシミュレーションでは、あなたを生かしておけば必ず思想と細菌は生み出されるのです。少ししゃべり過ぎましたが、あなたは明日を迎えることはありません」  田中は家に帰った後、この出来事を恨みつらみを交えて書きネットにあげた。閲覧者はわずかだったがこれはずっと残ることになる。  その日の深夜、田中は亡くなった。653年後の大厄災は避けられたのだ。       しかし彼の残した2人組との会話を元にした文章は、982年後の大虐殺の小さな小さな種となってしまうのだった。
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