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 翌日の閉店後、店の最寄り駅の前にある居酒屋で、梶田くんいらっしゃーい、という店長の掛け声とともに碧は自身のジョッキを持ち上げた。  隣では知温が、よろしくおねがいします、と人懐こい笑顔でグラスを掲げている。 「梶田くん、うちの服似合うよねえ。今日びっくりしちゃった」  テーブルをはさんで向かい側にいた優菜が身を乗り出して知温を見やる。  黒いパンツにあえて真っ白なTシャツ、その上にはかっちりとしたジャケットを着ていた。長身でバランスのいい体形だからこそ決まるスタイルだろう。 「そう言ってもらえると嬉しいです。優菜ちゃんの着てるパーカーもよく似合ってます」 「ありがとう、初給料で買ったお気に入りなんだー。うちの服、ちゃんと大事に着れば長持ちするから、結果お買い得なんだよね」 「素材に関しては妥協してないって、本社研修でも言ってました」  着心地もいいですもんね、と碧に微笑む。  話を聞きながらジョッキを傾けていた碧は、どうしてこちらを見るのだ、目の前の優菜と話してるのではなかったのか、と微妙に焦りながら、そろりと視線を優菜に向けた。やっぱりその表情は少し不機嫌になっている。予想通り三次元彼氏のターゲットは知温になったようだ。 朝は興味なさそうだったのに一日見ていていいなとでも思ったのかもしれない。 「そう、だね。そこはお客様に推していっていいと思うよ」  当たり障りのない言葉を返して笑うと、知温が、碧くんも、とこちらに手を伸ばす。 「このシャツ似合ってるなって、思ってました」  くん、と襟を掴まれ、驚いて知温を見やる。キスでもできそうな距離にその顔があり碧は驚きで固まってしまう。それを見ていた知温が口の端を引き上げてからそっと襟を離した。 「碧くんって、可愛いってよく言われませんか?」 「言われてるー。それさ、普通女の子の私に言わない? どうしてみんな碧くんに言うわけ?」  知温の言葉に先に答えたのは優菜だった。自分に意識を戻してほしいという気持ちが手に取るように分かったので、碧は何も言わずに目の前の取り皿に入ったままだった唐揚げを口に運ぶ。いつも通りショウガが効いていて美味しい。 「まあ元から可愛い人に可愛いって言うのはなんだか当たり前すぎてあえて言わないのかもしれないです。優菜ちゃんは当たり前に可愛い人だから……あと多分、碧くんは、こういうところが可愛いって言われるんだと思います」  知温の言葉を聞いて碧が顔を上げる。口の中には唐揚げがいっぱいに入っていて何かを喋るような状態ではない。けれどそれを見た優菜が、ああ、と頷く。 「確かに、碧くんって小動物っぽいかも。そっちかー、そっちならいいや」  優菜の機嫌が途端に良くなったので、碧は内心ほっとしていた。同じ店で働くスタッフとはなるべく良好な関係を保っていたい。いくらゲイでも同僚と男の取り合いは避けたいものだ。 「……まあ、俺は別の意味でも可愛いと思いますけど」  向かい側の優菜には聞こえない程度の小さな声が隣から聞こえる。碧が知温を見上げると、その口元が小さく微笑んだ。  ――これ、誘われて、る?  まさかそんなはずはないだろう、と碧は愛想笑いを浮かべてから、目の前のジョッキの中身を飲み干した。
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