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知温と約束した日は、碧が早番、知温が通し勤務だった。
夕方、買い物を終えて帰ってきた碧は早速買ったものを広げ、苦笑いを浮かべる。
「趣味じゃないんだけどなあ……」
先日波音に、知温を家に呼ぶことを話すと、『ベッドカバー、黒からせめて白にチェンジしてよ』と言われてしまった。そういう細かいところに可愛らしさは現れるのだと波音は言う。半信半疑のまま薄いピンク色のシーツと白いベッドカバーを買ってきたのだが、狭いワンルームでベッドの占有率が高いせいもあり、部屋の印象はがらりと変わった。さすがは波音、と言いたいが、本当に趣味じゃない。知温が来た時だけ、それも三カ月の間だ、そう何度もこれを使う事もないだろうと、浅く息を吐いて、今度はキッチンへと向かった。
「どうぞ、上がって」
仕事を終えてから碧の家へと来た知温を、碧はエプロン姿で出迎えた。これも波音の入れ知恵だ。さすがにフリルのついた可愛らしいものは抵抗があったので黒の普通のエプロンにした。
「ご飯作ってくれてたの? 嬉しいな」
それでも知温の心を掴むのには十分だったようだ。知温は華やいだ笑顔を見せ、碧を抱きしめた。そのままキスをする。
「と、も、温く……ご飯……」
いきなり求められ、碧は慌ててキスの隙間から、先にご飯を食べようと訴える。けれど知温は碧の言葉など聞く気はないようで、エプロンの下へと手を差し入れた。
「ご飯は後で。先に碧が食べたい」
その言葉の中に、碧が好きだからなんていう気持ちがないことを知っている碧は、少し冷めた気持ちのまま知温のキスに応じる。前回家に行くことを拒んだ、つまり抱かれることを拒んだので、逃げないうちにコトに持ち込みたいという知温の思惑はひしひしと伝わった。
今日は拒むことはできない。
抵抗しないことをいいことに、知温が碧のシャツを脱がせ、下着ごとパンツもおろす。エプロンだけというマニアックな格好にされた碧は、知温を見上げ小さく笑った。
「ちょっとせっかち過ぎない?」
「抱きたかったんだよ。それに、こんな格好されたらもうそれしか考えられない」
エプロンの上から胸をまさぐり、その先を探し当てて爪の先でひっかくように刺激する。碧の肩がびくりと震えた。
「碧も抱かれたくなってきただろ?」
知温が口の端を引き上げ、じっとこちらを見つめる。悔しいけれど、好みの顔にこんなふうに見つめられて求められたら、即落ちしてしまう。碧が静かに頷いて、知温の肩に両腕を廻した。そのまま知温は碧の体を抱え、ベッドへと運ぶ。
「可愛い……次はちゃんと素面で抱きたいなって思ってたんだ」
確かに初めての時は、碧は酔っていてあまり覚えていない。初めてだったせいもあるが、知温の好きにされて、ただ喘がされていたような気がする。
「この前、碧、初めてだったんだよね。そういうのとか、気にしてあげられなくてごめん」
知温が碧に覆いかぶさるようにベッドへ乗る。碧はそれに、気にしなくていいよ、と笑って知温の頬に手を伸ばした。知温が指先を絡めるようにその手を取った。
「碧は優しくて可愛くて理解あって……もっと好きになりそう」
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